表題番号:2013B-034 日付:2014/04/11
研究課題ミクロ・マクロ・リンク説明論理に関する社会学的研究―世代階層論を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 和田 修一
研究成果概要
社会学的分析方法論に関わる基本的な問題が、いわゆるmicro-macro linkであるが、この領域における新たな理論形成を目指す本研究は、J.コールマンの理論の問題点を補修することでその作業を進めている。すなわち、「任意の社会組織[制度]の成立、成長を説明するために必要なのは、人がそうするように動機付けられるにいたった経緯であり、そして、この誘因の相互依存システムが存続可能となった経緯である」(下線は和田。以下同様)という認識から出発し、ミクロな社会的交互作用の過程から創発的特性(パラメータ)である「規範」の生成過程を論じるというコールマンの理論構成である。すなわち、「規範は…ミクロ水準での目的的[効用の極大化]行為にもとづいていたものが、ある条件のもとでミクロからマクロへと移行して存在するようになったもの」であり、「規範が発生するためには、単純な二つの条件が揃って充たされれば十分である」とした上で、その条件としては、「効果的な規範に対する需要が生じるための条件」[いうなれば、創発的特性生成の必要条件]であり、そして「その需要が充たされるための条件(すなわち、効果的な裁可が働くための条件)」[同じく、十分条件]である、というアイデアである。この発想は、従来社会学の中で等閑視されがちであったspontaneous orderの発生機序から社会秩序の構造化を説明することを試みている点で魅力的なものであるが、しかしここで問題とすべきは、上記の「規範に対する需要が生じるための条件」(必要条件)と「効果的な裁可が働くための条件」(っ十分条件)のふたつの条件は次元のことなる事柄である、という認識が欠落していることである。すなわち、上記でいう必要条件は個別の動機づけから行われる主体間の相互行為の内的プロセスから生まれる要因(spontaneous order)であるが、十分条件は意図的に作られる制度(made order)であらねばならないということである。本研究では、このふたつの要因を連結する理論構造を、反事実的条件法の論理を適用することによって明らかにすることを試みた。
その際に着目した点は、A.スミスがspontaneous orderの成立条件として想定した要件がsympathyであり、その個人の内的・心理的要因がfair and impartial spectatorの存在条件へと転換する創発的プロセスの構造を明らかにする、という点である。そしてその際、この創発的プロセスには、全体社会に一般的適応されるような論理はありえずに、「市場」「組織」「コミュニティ」という少なくとも3つの社会的環境の中で特定化されていく必要がある、ということに着目した。特に、組織における権力による秩序形成論理ならびにコミュニティにおける親密性を媒体にした、fair and impartial spectatorとしてのwe-feelingの形成論理の構造を明らかにすることを試みた。