表題番号:2013B-032 日付:2014/03/03
研究課題〈場所〉の現象学的美学に関する基盤研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 小林 信之
研究成果概要
「場所」概念を現象学的に掘り下げるにあたり、本年度はとりわけ西田幾多郎の哲学とハイデガーの「情態性」に関する議論を中心に考察した。そこからさらに、場所論を美学上の問題として展開する論考も公表した。
まとめると、研究成果は下記の項目に集約される。
1.アイステーシス(美的・感性的働き)がわたしたちの日常的生活世界という「場所」において、どのように作動し、どのような意味をもちうるか、について。フッサールにはじまるエポケーの概念を再考すると同時に、それをよりラディカルに継承したハイデガーの「不安」概念を検討した。
わたしたちの知覚経験は、たとえば風の音という「もの」のたち現れを聴き取る「気づき」の経験である。しかも、ものの現れは単独の孤立した現象ではなく、相互に連関しあったさまざまな意味の網目を構成し、わたしたちの生きる日常世界を指示している。世界は、わたしたちとものの出会いに先立って、意味の地平としてすでに開示されていなければならない。そしてそこからさらに、この世界を世界として可能にしている時間性が、たとえば「秋」という季節のおとづれの内に気づかれる(驚かれる)のである。 本論は、このように現象学的探求のなかで得られた世界概念とその構造への問いを遡及的に問い、そこから場所論へと展開する可能性を探求した。その際導きの糸となったのは、風の音に「驚く」というアイステーシスの経験であり、したがって本研究は広い意味での美学研究に位置づけることができる。研究成果は、早稲田大学総合人文科学研究センター『WASEDA RILAS JOURNAL』 NO. 1に公表した。
2.西田幾多郎の場所論の考察。西田の場所概念と、その美学的展開可能性について検討した。その際、西欧において歴史的に形成された美学理論を相対化すると同時に、東アジア的世界に目をむける必然性に留意した。研究成果は、『日本の哲学』第14号に公表した。
3.ハイデガーの情態性論を、とくにエポケー概念との連関において考察した。研究成果は、2013年9月におこなわれた学会(ハイデガー・フォーラム、於関西大学)にて公表した。