表題番号:2013B-018 日付:2014/04/12
研究課題持続可能な農業生産と農地法制
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 楜澤 能生
研究成果概要

1.産業社会を支えてきた抽象的、観念的所有権概念は、持続可能社会への転換に向けて、新たな内容を付与されなければならない。その内容がいかにあるべきかについては、農地法における農地所有権の規定が大きな示唆を与えている。農地所有権の中核をなすのは、農地に対する権利者の当該農地上での農作業常時従事義務である。これは農地に対する権利主体と対象である農地との関係を、抽象的、観念的なものとしてではなく、具体的事実的なものとして構成していることを意味している。これにより権利主体と権利客体の持続的関係が保障されることになる。この原理を、都市における土地所有、企業に対する土地所有に応用することができないか、という着想をうることができた。
2.同時にこのような方向での、具体的な所有権の内容規定の方法に関しては、ドイツにおける脱原発をめぐる憲法教義学上の議論が大きな手がかりを与えてくれることが分かった。ただしここでは、基本権としての所有権の一般的内容と、立法者による具体的内容付与との関係に関する規範的議論がなお深められる必要があることも認識された。
3.所有権の抽象的観念的内容から、具体的事実的内容への転換という発想にとって、入会権のような旧慣的権利が果たしてきた機能も大きな手掛かりを与えてくれることから、改めてこのような問題視角から旧慣的権利の分析を行うことの意義を確認することができた。
4.農業生産と農産物市場の管理法制をどう設計するかの問題も、農業の持続性を考える上で不可欠の課題である。国家法による市場管理から、協同組合を中心とする私人による管理へという歴史を持つスイスに注目し、そこでの経験を理解することができた。
5.農地中間管理機構の導入が、農地の自主管理という、戦後農地法制を支える重要な法原理と矛盾する性格を持つことを確認することができた。
6.日本の農地制度(農業委員会制度を含めて)を改変しようとする最近の動向は、持続可能な農業生産という方向と真っ向から対立することを論証することができた。