表題番号:2013B-014 日付:2014/05/16
研究課題市場のグローバル化と国家の役割-金融・環境・貧困リスクへの比較法的アプローチ-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 上村 達男
研究成果概要
株式会社法は証券市場を使いこなすことのできる制度としての特徴があるが、とかくその市場の側面ばかりが強調され勝ちであり、それがグローバル・マーケットになると、そこでの「金があるから市場で買えた」という論理ばかりが独り立ちしていく。こうした状況に対して、市場がグローバルでもルールや規範、各国の国益やデモクラシーといった問題はグローバルでないことにより、きわめて多くの問題が生じている。本研究は、株式会社法は市場の論理とデモクラシーの調和の世界であるという私の一貫した主張を、グローバル市場の論理と国家の役割という形で研究するものであった。こうした発想は、市場の論理の犠牲となりがちな弱者の立場や、地球生命の全体の生存に関わる環境問題、巨大災害問題といった広い射程を有しており、持続可能社会法学の可能性を開発の側の論理となりやすい企業の論理の再構築という視点を強調する観点に繋がってきている。こうした発想は現在の支配的な見解に対する挑戦である。こうした観点を強調した新学術領域研究は不採択となったが、比較法研究所を中心にますます元気に早稲田らしい研究の世界発信を行っていこうという話にもなっている。自然と人間の在り方に関する欧州の人間優位の発想が地球環境や生命現象の破壊をもたらしてきたという認識は世界的に広がってきており、そうした状況にあって、自然そのものに神を見出してきた日本の視点こそが従来の発想の限界を指摘しうる貴重な視点であるとの認識も広がりを見せつつある。こうした研究は学の独立をもって建学の精神とする早稲田大学にこそ相応しいものであり、早稲田発の理念が日本発の理念となり世界に発信されることは国家的意義を有すると思われる。
この1年間の研究はこうした思いを確信に高める期間として位置づけられたと考えている。先般、こうした観点を強調するシンポジウムを開催したところ、かなり大きな関心を呼び、多数の人々の参加を得た。今大事な観点は単に弱者を保護するというだけではなく、企業法制の論理と市場法制の論理の根幹を見直す作業とともに、問題を捉えていくことであろう。