表題番号:2013B-012 日付:2014/04/02
研究課題非占有担保における劣後的担保権の実行制度に関する日米の比較法研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 青木 則幸
研究成果概要
 事業者融資取引においては、古くから不動産や固定動産を譲渡担保に供する取引がみられ、関連する判例・学説が蓄積されてきた。また、1980年代頃からは、(あ)従来債務者の危急時における担保財産のように見られてきた在庫商品や売掛債権について、(い)正常業務としての流動動産譲渡担保や将来債権譲渡担保として利用する取引が増え、関連する判例・学説が展開されるようになっていた。かような中で、(う)2000年代半ばから導入が進められているABL取引は、事業のキャッシュフローを構成する流動財産(在庫商品等の流動動産、売掛金債権等の流動債権、預金口座)を包括的に担保にとる取引類型である。類型は担保目的財産の種類という点では(い)類型と重複するが、取引類型は異なる。(い)類型では、非占有担保の性質と関連付けて期中の債務者の事業経営の自由が説かれる一方、担保権の実行局面においては目的財産の換価金からの優先弁済の機能が強調されてきた。対して(う)類型では、キャッシュフローを生み出す事業価値そのものに注目する与信として、期中においても融資者の監視や助言による債務者の事業の適正な営業の確保が予定され、信用不安発生時にも事業清算につながる担保権の実行ではなく倒産手続等により事業継続を前提とした弁済の確保が行われる取引であることが強調される(池田真朗・ABLの展望と課題・NBL864号21頁等)。担保の機能もかような取引のサイクルとの関係で説明される(森田修・アメリカ倒産担保法(2005年)等)。
 上記(う)類型を、(あ)や(い)の類型に代替し一元化されるべき類型とみるのではなく、(あ)や(い)の類型とは取引目的を異にし併存しうる取引類型とみる場合、劣後担保権に私的実行権限を認め実益を確保する要請は(う)類型の普及とともに高まっていく可能性がある。(う)類型の担保権者は優先的包括担保権者であるが、簡単には私的実行を行わない担保権者である。彼が単独担保権者でない場合、むしろ(い)類型の有担保融資を行う劣後担保権者が、時間的には先行して私的実行を行う要請も考えられる。
 本研究では、このような問題意識に基づき、わが国の動産担保における劣後担保権の実行制度を検討した結果、同制度は、不動産非占有担保権の実行制度(抵当権・仮登記担保・譲渡担保)の議論をモデルとして理論構成がなされてきたにもかかわらず、不動産の場合よりも劣後的担保権者のとりうる選択肢が極端に少ないことを明らかにした。
 本研究は、複数年の研究期間を措定した研究課題の導入部分の研究にあたる単年度研究である。そのため、本研究としては、上記のような問題意識の明示とわが国の議論状況の分析をもって一応の結論とする。
 なお、本研究課題は、本研究を経て、平成26年度科研費(基盤(C))に採択されたことを付記する。