表題番号:2013A-985 日付:2014/03/17
研究課題日本の株式市場における投資部門別の戦略の切り替え・切り替え頻度の実証分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 准教授 山本 竜市
研究成果概要
   本研究では日本の株式市場における投資家の期待形成メカニズムと、期待と株価変動の関係をエージェントベース理論をもとに明らかにする。市場構造分析の経済理論として注目を集めるエージェントベース理論モデルでは株価が大きく変動する理由として、投資家の予測がいくつもの投資戦略から選ばれる形で形成され、投資家は選ぶ戦略を時間を通じて変えていることに注目する。特に注目すべき点は、多くの投資家の期待が主に価格のトレンドに沿って形成される場合は、株価は短期的にはバブルや暴落などに見られる不安定な動きをする点である。しかし、一方で日本の投資家が期待を形成する際「戦略の切り替え」を行なっているか否か、そしてこの「戦略の切替え」が実証的に見て日本の株価変動の要因であるか否かを明らかにした実証論文は極めて少ない。さらには、戦略を切り替えて株価変動に影響を与えている投資家の属性を特定している先行研究、そして戦略の切替頻度を実証的に特定した研究は過去見当たらない。私は、東京証券取引所が発行している「投資部門別の売買状況」のデータを用いこの研究を行っている。分析している投資家のタイプは1)海外投資家、2)証券会社、3)投資信託、4)事業法人、5)生・損保、6)都銀・地銀、7)信託銀行である。またデータは月次であり、データを四半期毎に集約することにより、戦略の切り替えの頻度が月次か四半期毎か実証的に検証した。検証した戦略はファンダメンタル戦略とトレンドフォロイング戦略である。ファンダメンタル戦略とは、企業の純利益や配当金などの代理変数で測られる企業の根源的価値の周りを株価は推移すると予測する戦略であり、トレンドフォロイング戦略とは過去の価格情報をもとに期待を形成する戦略である。
   助成を受けた10月より本格的にこの研究に取り組み、実証結果が出た後、論文の初稿を書き上げた。得られた結果は以下の通りである。第一に、分析した投資家の戦略の切替を特徴付けるパラメータが統計的に有意である結果が得られた。つまり現実の投資家は投資戦略を時間を通じて切り替えているのである。第二に、信託銀行は一ヶ月より3ヶ月ごとに戦略を切り替え、その他のタイプは一ヶ月ごと戦略を切り替える傾向が強い。第三に、戦略を切り替えても必ずしも利益を上げられるとは限らない、という結果が得られた。