表題番号:2013A-978 日付:2014/04/11
研究課題自己行為の時間的拡張:「過去に実行したこと」と「未来に実行すべきこと」の記憶
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等研究所 助教 杉森 絵里子
研究成果概要
人は行為を実行する際、無意識に「今、自分がこの行為を実行している」という感覚(自己主体感)が得られている。本研究では、一般大学生に自己主体感に障害があることが示唆されている統合失調症型パーソナリティを質問紙で測定し、実験結果との関係を検討することで、「今、自分が頭の中で(想像上の)声を作り出している」という自己主体感が、過去・現在・未来の時間軸において,空想と現実の区別を担うことを示すことを目的とした実験を記憶課題を用いて行った。
実験は、Pre段階、学習段階、記憶テスト段階の3段階から成った。Pre段階では、各実験参加者が聞こえる声の大きさの最小を調べ、学習段階においてその声の大きさを「小音」として用いた。学習段階では、ホワイトノイズが流れる中、単語を1つ1つ視覚呈示し、その単語を読み上げる声が聞こえる時と聞こえない時を設定し、聞こえる時にはその声の大きさ(大音、小音)と、読み上げる単語の完全度(完全、断片)を操作した。記憶テスト段階において、学習段階で呈示した単語1つ1つに対して「学習段階で声が聞こえてきたか否か」をたずね、「聞こえてきた」と判断した場合には、その声の大きさと読み上げる単語の完全度についてたずねた。
その結果、「聞こえてきた」と判断した場合には、実際に聞こえてきたか否かに関わらず、そして実際に聞こえた声の大きさや完全度に関わらず「大きい声」でかつ「完全な単語」として聞こえてきたと判断する傾向が高いことが明らかになった。さらに、一般大学生の中でも、統合失調症傾向が高い人(=自己主体感が得られにくい人)は、より「大きい声」で「完全な単語」として聞こえてきたと判断する傾向が高いことが明らかになった。つまり、「今、自分が頭の中で声を作り出している」という自己主体感が得られにくい上に、「大きい声」で「完全な単語」として読み上げる声を想像できることが、この結果に起因すると考えられる。