表題番号:2013A-967 日付:2014/04/10
研究課題熟議民主主義的手法の公民科教育教材としての実現可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 後藤 潤平
研究成果概要
グラハム・スミスは2000年にデンマークにおけるコンセンサス会議、ドイツのプラーヌンクスツェレ、イギリスの市民陪審、アメリカのデリバラティブ・ポリングを熟議民主主義の実践的アプローチとして位置づけた(Smith, G, 2000, Toward deliberative institutions)。これらの取組は、日本においても各地の青年会議所による市民討議会をはじめ、大学や研究機関が実施しており、その意義や課題への理解も積み重ねられている。本研究ではこれらの熟議民主主義的な手法の共通点を、論争的な公的課題、多様な立場からの情報提供、小グループによる討論といった点に求め、中等教育課程における課題解決型授業への適用可能性を模索するものである。
本年度は各地で行われている課題解決型授業の取組を整理することが目指された。実際に教育現場では、浦和第一女子高等学校の華井裕隆教諭が2013年10月に日本社会科教育学会で「政策的思考の育成をはかる授業」として報告した複数のエネルギー政策を選択肢として討論させる授業など、数多くの取組が展開されており、その取組への注目度や評価も高く、社会科教育における関心の高さが伺えるものであった。今年度の授業実践としては、高校3年生の政治経済の授業において、アメリカ・モンタナ州のシムズ高校の生徒とパキスタンのBVSParsiの生徒と共同で、Japan SocietyのSNSを利用したGoing Globalプロジェクトを行った。これは各校の生徒が、核開発、貧困、エネルギー政策の3テーマに関する各国の新聞記事を紹介し、それらの記事への意見を交換しあうもので、各国の生徒がどのような記事に興味を持ち、どのようにその記事を捉え、どのような課題を設定するかといった点に注目するものであった。公的な課題に対する多様な立場からの情報提供と小グループによる討論を実験し、それを踏まえて外国の同世代と意見を交換する取組が行われた点で一定の可能性は示したものの、その内容に関しては課題を残しており、その克服のためには、中等教育課程に相応しいさらに丁寧なシステムの設計が必要である。また、今後は中学における公民の時間や、政治経済や倫理といった公民科の授業における展開を引き続き継続するとともに、多様な教科内における実現可能性を模索することも肝要である。