表題番号:2013A-955 日付:2014/04/11
研究課題越境時代の国籍とパスポートに関する文化人類学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 准教授 陳 天璽
研究成果概要
  本研究は、人の越境が頻繁化している現代社会における国籍やパスポートに焦点を当て研究・調査を行った。なかでも特に、一国家の枠組みのみでは捉えきれない人びと、重国籍者や無国籍者に注目することを通し、国家間に起きているズレを明らかにすることを試みた。こうした調査研究を踏まえ、国家間のはざまにいる人の権利やメンバーシップについて考察を行ってきた。
 調査研究期間の前半では、パスポートの形成、その歴史的背景、パスポートの歴史変遷など、国家がどのように成員を掌握してきたのかについて、先行研究を精読し整理を行った。特に、『The Invention of Passport』から、歴史背景について多くの知見を学ぶことができた。また、申請者が所属する研究会「移動と身分証明の人類学」において、法学や歴史学、社会学などの視点から関連問題を研究するメンバーとともに、人の移動にともなう国籍やパスポート、ビザ制度のあり方、身分証明書の種類、その分類法、国籍の記載方法などについて討論を行った。具体的には、チベット人の移動とパスポートの取得方法、イギリス宗主国と植民地のパスポートや身分証明の種類などについて討論した。ほかにもさまざまな身分証明書の機能と形成背景、人々に与えた影響について比較分析を行った。そうした、比較を通して明らかになったことは、同一人物について、関係するA国とB国が、その人物の国籍、身分の把握にズレが生じていることがあるということである。また、国によって成員の把握方法も差異があり、グローバル時代とはいえ標準化を求めることは難しいようだ。
研究期間の後半において、申請者は、重国籍者や無国籍者が所持するパスポートや渡航書に焦点を当て、発行機関そして使用方法などの内実がどのようになっているのかについてインタビュー調査を行った。また、インタビュー対象者が所有する身分証明書、パスポート、渡航書などを記録し、さらに可能であれば収集も行った。なお、収集した身分証明書やパスポートについては、国立民族学博物館に寄贈し、標本資料として保存している。この度、同博物館の東アジア展示場のリニューアルオープンに合わせ、無国籍者の身分証明書や華僑の身分証明書に関しては、申請者がかかわった「華僑華人コーナー」および「多みんぞくニホンコーナー」の常設展示場で展示し、一般公開している。そうすることによって、研究成果の社会的還元を実現することができている。