表題番号:2013A-953 日付:2014/04/10
研究課題平和構築を担う人材の効果的な育成(能力構築)方法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 准教授 上杉 勇司
研究成果概要
本研究の採択助成額は18万円であった。その財源を有効に活用するために、本研究を推進する上で最も重要な現地調査の実施に、この財源を充てることとした。申請者が過去7年間従事してきた平和構築に関する人材育成事業(外務省委託『平和構築人材育成事業』)の関係者が複数名活動している地域の中から、予算以内で現地調査を実施できる地域として東南アジアを選び、最も効果的に調査を実施できることが明らかになったラオスを訪問した。紛争後の平和構築の文脈からは逸れるが、一党独裁体制下のラオスにおいて進められている平和構築に関連する取り組み(地雷や不発弾除去)や民主化に向けたガバナンスも課題について、調査を実施した。ラオスの平和構築の実際・実務に関与する人材への聞き取り調査や意見交換を行うことで、まだ書籍や論文などでは、窺い知れない最新の動きや内情を知ることができた。

次に、具体的な成果を簡潔にまとめてみたい。冷戦中の米国との戦争の傷跡は、地雷や不発弾の問題として、ラオスにとっての冷戦の残滓として認識されている。不発弾処理の課題は、平和構築の活動の中でも、最も政治性は低く、技術論として片付けることが可能な領域であると言える。また、冷戦後に国際社会から脚光を浴びることとなった内戦終結後の国家建設といったドラスチックな変化ではなく、緩やかな変化を経験するラオスでの取り組みは、これまで研究者の関心を集めてこなかったと言える。また、経済的側面では市場経済化が徐々に進んでいるものの、政治的自由や複数政党制による民主化といった政治面での改革が遅れているラオスにおいて、「平和構築」という新しい概念とアプローチはどのような関連性があるのかを探ることを目指した。

先ほども指摘したように、ラオスでの平和構築支援の中核にある不発弾処理の問題は、技術論(つまり、支援の目的は現地の職員の処理技術の向上にある)であり、人材育成の観点は、もっぱら技術向上にある。しかしながら、日本の『平和構築人材育成事業』は、より政治的・戦略的文脈での「平和構築」に焦点を当てており、これまでの人材育成の取り組みも、ここの具体的な技術の習得ではなく、より普遍的なアプローチの習得に偏っていた。広義の平和構築という定義に基づき、多様な「平和構築」の場面を想定し、それぞれに役立つような共通の基盤(分析、計画、調整、管理、モニタリング)に必須の技術を中心に研修を実施してきた。

例えば今回のラオスの調査で明らかになったような個別の技術の習得に関しては、これまでの方法は効果的ではない。つまり、『平和構築人材育成事業』を通じて、不発弾処理要員を育成することは、そもそも視野に入れていない。ただし、不発弾処理要員の育成プログラムを企画し研修を円滑に実施する研修企画管理業務を担う人材の育成においては、効果的であることが今回の調査で明らかにされた。また、現地の人々が不発弾処理技術を身につけることは、事業の持続可能性の観点からも、また雇用創出の観点からも、日本人などの外部支援者が習得するよりも望ましい。

以上のような現実の中で課題としてあげられることは、能力強化の一環として取り組まれる技術支援あるいは技術者育成の支援を、いかにより大きな文脈や政治・社会的な変化と連動させていくのかということである。例えば、不発弾処理のような一つひとつ技術支援の積み重ねが、どのように広義の平和構築に連なっていくのか、社会の構造的な変革を引き起こすことができるのか、このような視点が欠けている。すなわち、平和構築の戦略見取り図を描くような人材が求められているといえる。しかしながら、現在の『平和構築人材育成事業』はエントリーレベルの若手専門家の育成を重視していることもあり、よりシニアな立場に就くものに求められる戦略的構想力の涵養は視野に入っていない。平和構築の現場の最前線で求められる、多種多様な個々の技術力の向上を目指していない点は、比較優位の観点からも、現地の主体性の観点からも評価できる。ところが、現状のアプローチでは、戦略的なレベルで効果的に力を発揮できるような人材の育成を目指していない点が課題として明らかになった。この課題に対しては、現在のプログラムに変更を加えるというよりも、あらたに上級レベルの研修を立ち上げる必要性を示唆していると結論づけたい。