表題番号:2013A-935 日付:2014/03/12
研究課題戦後復興期における労使関係の形成過程に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 橋本 健二
研究成果概要
 本研究は科学研究費(基盤(B))に採択された「戦後日本社会の形成過程に関する計量歴史社会学的研究」を補足するために、当初予定になかったデータの作成と分析を行おうとするものである。上記科研費研究では、1951 年に東京大学社会科学研究所によって実施された「京浜工業地帯調査」の調査票原票の回答をデータ化し、分析をすすめている。これに付随して、調査対象者のうち50名に対して行なわれた詳細な面接調査記録が発見されたため、これをデジタルカメラで撮影して画像化し、さらに学生アルバイトを雇用してワードプロセッサに入力して文書化した。これによって、「京浜工業地帯調査」の主要部分のデータが、すべてデジタル化された。
 以上を分析した結果、以下の諸点が明らかとなった。
 (1)調査の中心人物だった氏原正治郎は、本調査から「企業封鎖的労働市場」という労働市場モデルを提唱し、日本の大企業は主に若年の未熟練労働者を採用して育成し、長期にわたって雇用すること、ここでは勤続年数に基づく年功制が形成されていること、大企業の労働市場は封鎖性が強く、中小企業の労働市場から分断されていることなどを主張した。これが、その後の「日本的雇用慣行」をめぐる研究の原型となった。しかしデータの再分析からは、これらは一部しか実証されなかった。
 (2)さらに氏原は、明確な根拠を示さなかったものの、企業封鎖的労働市場の成立時期は「第一次大戦後の合理化の時代と戦時中の生産力増強の時代」と指摘した。これはその後、兵藤剣の研究によって実証的根拠が与えられ、ある時期までは定説と扱われたものの、近年ではこれを否定する研究が相次いでいた。これに対して今回、機械工業の労働者の職歴分析を行なったところ、この指摘がかなりの程度に実証されることが判明した。
 (3)氏原の研究では、聞き取り調査の結果のうち、長期勤続しているごく一部の労働者の証言を中心に結論が組み立てられていた。この結果、長期勤続を中心とする「日本的雇用慣行」の存在が過大評価された可能性があることが判明した。