表題番号:2013A-926 日付:2014/04/10
研究課題環境技術研究開発:学習過程を伴うプロジェクト選択モデルによる分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 准教授 及川 浩希
研究成果概要
 本研究では、研究開発補助金等の政策によってインセンティブを追加された民間の研究開発主体の行動分析を行った。科学技術開発のプロジェクトは最終的な成果が出るまでに時間がかかる場合が多く、また、研究開発の緒に就いた段階では、必ずしも先の見通しは明確でない。この性質を分析に取り込むため、研究開発を進めながら、同時にプロジェクトの質の評価を行い、最適なプロジェクトを模索しながら開発を進める研究開発主体を想定した。
 研究開発主体の意思決定をモデル化するにあたり、ベイズ推定による、プロジェクトの性質についてのビリーフ更新を伴う最適停止理論を用い、新規技術の完成というゴールが設定されているところに特徴を持たせた。複数の研究プロジェクトが存在するケースにも容易に拡張できるが、アームド・バンディッドの枠組から逸れるため、計算量の負荷が増大しがちであり、その点は今後の課題といえる(現状では、2種類のプロジェクトを選べる状況を分析している)。いずれにしてもこうした理論化によって、環境汚染技術の負の外部性だけでなく、研究開発主体自身が、現在進めているプロジェクトがどの程度有望であるかを合理的に精査し、より良いプロジェクトを選択していく学習プロセスを、明示的に分析の俎上に載せられるところに本研究の貢献がある。さらに、理論を定量分析に繋げる試みとして、電気自動車の開発過程のデータを用いてモデルのパラメータを設定し、シミュレーションを行った。
 本研究で得られた結論は以下の通りである。政策サイドが前述の学習プロセスの影響を考慮に入れないと、研究開発補助金は過少になる。また、環境効率の低い旧技術へのピグー税は、効率性の点で研究開発補助金を下回る。これは特に、複数のプロジェクトが存在する場合に顕著となる。シミュレーションによる定量分析では、学習プロセスを考慮に入れた最適な補助金政策を取ると、当該研究開発に関わる社会的便益が10%程度上昇することが示された。