表題番号:2013A-922 日付:2014/04/11
研究課題ポリマーナノコンポジットにおける微量イオン不純物の高温絶縁特性への影響解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 飯塚 智徳
研究成果概要
研究目的:
ポリマーコンポジット材料における絶縁性能の温度依存性とその要因を解明することを目的としている.

研究内容:
これまでにフィラー粒子を添加することで絶縁劣化特性を向上させることが可能であることを明らかにしてきた.そこで,本研究では,高温環境下での耐部分放電特性に着目した.

評価方法:
耐部分放電試験における試験環境を30[℃],60[℃],110[℃]とし,高温環境下における絶縁特性への影響を評価した.用いた絶縁材料としては,高熱伝導性の向上のためのマイクロフィラー粒子を30 [wt%],40 [wt%],50 [wt%],60 [wt%]充填した試料を作製し,試験環境による違いを温度依存性とし,表面劣化深さを比較することで評価した.
試験条件として印加電圧4 [kVrms]とし,商用周波数60 [Hz]を10倍した600 [Hz]での加速劣化試験を行なった.印加実時間を12間,24時間,48時間,60時間とした.特性評価としてレーザー顕微鏡を用いた試料表面における侵食深さを測定し,未侵食部と侵食部との最大劣化深さを侵食断面形状より測定した.

研究結果:
ニート試料に対しフィラーを添加することで表面侵食深さが抑制されていることが形状プロファイルから得られていることが分かった.印加時間600 [hour] (実印加時間60 時間)においてそれぞれの試験環境下による違いとして,30[℃]の場合では,ニート試料では侵食深さが139.6 [μm] であったものが,60 wt%試料では41.4 [μm]となった.60℃の場合ではニート試料では175.7 [μm]であり,60 wt%試料では73.3 [μm]となった.110℃の場合では,ニート試料では288.1 [μm]であり,60 wt%試料では,140.0 [μm]であった.以上のことから全ての試料においてフィラー添加による表面劣化への抑制効果が得られた.しかしながら,温度による影響が大きく,特に110[℃]の試験環境下では試料への放電劣化が顕著となり,平均劣化深さはニート試料では288.1 [μm]となった.これは,30[℃]での劣化深さ(139.63 [μm])に対し,約2倍もの劣化深さとなった.

研究結果考察:
ニート試料とマイクロコンポジット試料共に劣化程度が最も深い領域は中心部である.マイクロコンポジット試料の中心部には,放電後に白い粒子が残存した.マイクロコンポジット試料の劣化形状は,マイクロ粒子が劣化侵食面に堆積し,垂直方向への劣化を抑制していたが,侵食領域面は広がっており,劣化中心部から周囲への侵食が進展したものと考えられる.また,実験環境の温度が上昇すると,劣化深さが大きくなり,いずれの温度変化環境でもマイクロアルミナフィラーは表面劣化の抑制に有効ということが分かった.
放電試験後の試料表面を光学顕微鏡で観察すると,実験環境の温度が上昇するにつれ,ニート試料とコンポジット試料のいずれも試料表面が茶色く変色し,放電劣化後の面積も広がっている様子が分かった.試料表面の色変化は熱劣化と考えられ,ニート試料と比べ,コンポジット試料では,周辺部での変色が顕著であり,劣化面積も広くなっていると考えられる.しかしながら,その劣化変色機構については今後より詳細に調べていく必要があると考えられた.

まとめ:
ポリマーナノコンポジット絶縁材料における高温環境下での部分放電特性に着目し,絶縁材料における高熱伝導性の向上のためにマイクロフィラー粒子を30 [wt%],40 [wt%],50 [wt%],60 [wt%]充填した試料を作製し,温度依存性を比較評価した.その結果,高温環境下では約2倍もの劣化深さとなり,温度依存性が大きいことが分かった.