表題番号:2013A-906 日付:2014/03/21
研究課題分子線エピタキシー法による高品質窒化物半導体結晶成長の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 牧本 俊樹
研究成果概要
 窒化物半導体をサファイア基板上に成長する従来の二段階成長法に代わり、AlONバッファー層を用いた新しい窒化物半導体成長方法をMBE法に初めて適用した。そして、AlONバッファー層を用いたMOVPE法での結晶成長と比較することにより、以下のような新たな知見を得た。

(1) MOVPE法と同様に、AlONバッファー層上にAlN層を直接成長させた場合には、鏡面のAlNエピタキシャル層が得られた。そして、成長したAlN層は圧縮歪を受けていることが明らかになった。これは、サファイア基板上に成長したAlN層と同じ傾向である。この結果は、圧縮歪の要因は、AlONバッファー層でなく、サファイア基板であることを示している。

(2) AlN層の成長前にAlONバッファー層に窒素プラズマを長時間照射すると、このAlONバッファー層上に成長したAlN層が劣化した。これは、窒素プラズマ照射によって、AlON層が劣化したためであると考えられる。このため、AlONバッファー層に窒素プラズマを必要以上に照射しないことが必要である。

(3) アニール炉において、窒素雰囲気でAlONバッファー層を1000 ℃でアニールした。このAlONバッファー層上にAlN層を成長したところ、AlN層の結晶性が著しく劣化した。MOVPE法では1000 ℃でAlONバッファー層上にGaN層を成長していることを考慮すると、窒素雰囲気でAlONバッファー層を1000 ℃でアニールすると、AlONバッファー層がAlO層でおおわれた多結晶に変化しているものと考えられる。これに対して、MOVPE法で使用するアンモニアがAlONバッファー層の表面にあるAlO層を還元し、窒化することにより、AlONバッファー層がAlN層でおおわれた多結晶に変化しているものと考えられる。この結果、MOVPE法では、AlONバッファー層上に結晶性の良いGaN層を成長することが可能になった。

(4) AlOキャップ層が無いAlONバッファー層を用いた場合、結晶性の良いAlN層をRFプラズマMBE法で成長することに成功した。このように、RFプラズマMBE法でAlONバッファー層を成長するためには、AlONバッファー層にAlOキャップ層を使用せず、AlN層を成長する前には、なるべく表面の酸化膜の悪影響を少なくする必要がある。

(5) 以上のことから、RFプラズマMBE法で窒化物半導体を成長する場合には、AlONバッファー層上に形成される自然酸化膜を取り除くプロセスが高品質の窒化物半導体結晶を成長するための鍵となる。