表題番号:2013A-904 日付:2014/04/04
研究課題海洋生物由来エピジェネティクス制御剤の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 新井 大祐
研究成果概要
 DNAやヒストンの可逆的な化学修飾から成るエピジェネティクスは細胞機能の基盤であり、正常細胞の分化制御や腫瘍形成などに深く関わる。申請者が所属する中尾研究室ではユニークな活性を持つ天然化合物の探索源となる海洋生物抽出物ライブラリーを保有しており、ヒストン修飾制御剤のスクリーニングを進めてきた。本研究では過去の成果を発展させ、エピジェネティクスの基礎研究における新規プローブや医薬品の候補としての新規ヒストン修飾制御剤を開発する事を目的とした。以下に本年度の主な成果を記す。
1. スクリーニング手法の効率化
 これまではヒストン修飾を免疫染色で検出し、蛍光の変化を目視にて観察していたが、蛍光強度を細胞単位で数値化する新たなプログラムを開発した。これにより、スクリーニングによる大量の実験結果をヒートマップ解析により俯瞰的に整理することや、複数の修飾間の相関を用意に検出することが可能となった。これを海洋生物抽出物ライブラリーによるヒストン修飾スクリーニングの結果に適用することで、新たな制御剤候補を同定した。現在活性本体の精製を進めている。
2. 薬理作用の検討
 スクリーニングにより同定された、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)ならびにDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害活性を有する既知化合物psammaplinについて、胚様体形成に対する影響を調べたところ、外胚葉分化を阻害し、中胚葉、内胚葉分化を促進する作用を持つ事がわかった。
 Aurilideはがん細胞に対して非常に強い毒性を持ち、PHB1を標的としミトコンドリアの断片化ならびにアポトーシスを誘導することが知られている。ヒストン修飾スクリーニングによりaurilideはヒストンH3の27番目のリジン(H3K27)やH3K9のトリメチル化を亢進させ、アセチル化を減少させる化合物として同定された。さらにaurilideのヒストン修飾への作用はPHB1とは無関係であり、新たな作用経路が存在する事が明らかとなった。