表題番号:2013A-893 日付:2014/04/05
研究課題1985年メキシコ大地震後の跡地空間の公園化と記憶について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岡田 敦美
研究成果概要
東日本大震災後の日本にとって、地震による被害、とりわけ人的喪失に対する長期的な観点からの社会の取り組みが要請されている。そこで当該研究では、比較的近い過去に大都市の住民が大地震に巻き込まれ、多くの犠牲者を出した他国の経験を参照事例とするために、1985年メキシコシティ大地震を取り上げ、倒壊した建物の跡地の利用の仕方に関する調査を行った。
現地調査に先立ち、文献調査を行った。ジャーナリスト、知識人が短編、長編の刊行物を出しており、なかには現地で広く読まれ影響力を持っているものもあることがわかった。またこれらの文献調査を通して、建物の倒壊現場の特定や土壌に関するハザードマップなどの入手を行った。
そのうえで、現地に赴き、倒壊現場が現在どのような状況にあり、どのように利用されているのかを調査した。とりわけ跡地のオープンスペース化や公園化、記念(慰霊)碑の設置、追悼ミサなどの行事の定期的な実施といった、地震を記憶化し、後世に伝えてゆくためのさまざまな装置に着目した。おびただしい数の犠牲者を出した場所として広く知られている場所のなかには、それが住宅であったのか、経済活動に関連する場所であったのかにかかわらず、記念碑を設置したり記念日にミサなどの行事が行われている場合もあり、倒壊現場がメモリアルのためにオープンスペース、あるいは公園として残されることが可能となったところもある。そのような場合のいきさつや財源については文献調査を行った。しかし一方で、犠牲者の多寡にかかわらず、跡地に新しいビルが建ち、痕跡を全く留めない(記念碑なども一切見られない)ケースも目立つ。
公園化やオープンスペース化、碑の設置が可能となった場合、ならなかった場合それぞれの、より詳細な経緯の分析や、碑に込められた趣旨を当時の社会のなかに文脈化する分析を、論文としてまとめる準備をしている。犠牲者への公的な追悼の意味を明示的に持っている公共空間の利用はどのような場合に可能だったのかという問題は、人命や死に関する考え方や文化の問題、近年注目されている暴力や人権といった問題群をも射程に入れることができると考えられる。