表題番号:2013A-863
日付:2014/02/26
研究課題企業の所有・統治構造が企業・事業戦略に及ぼす影響について
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 商学学術院 | 教授 | 淺羽 茂 |
- 研究成果概要
- 研究課題である、「企業の所有・統治構造が企業・事業戦略に及ぼす影響」として、ファミリー・ビジネスの海外展開、研究開発行動における(非ファミリー・ビジネスと比較した際の)特徴を研究した。
1つは、日本の電機業界を分析対象として、その海外進出の程度、進出形態(単独か合弁か)、撤退の程度について、ファミリー・ビジネスと非ファミリー・ビジネスとで違いがあるかを分析した。その結果、非ファミリー・ビジネスに比べてファミリー・ビジネスは、海外進出の程度は有意に低いが、いったん進出すると、退出しにくいことが見出された。これは、事業の海外展開は国内で既存事業を続けている場合と異なり、従来と異質な知識(及びそれを有する人材)が必要となったり、(外部からの資金調達が必要になる)巨額な投資が必要となったりするので、ファミリーのコントロールが低下する恐れがあり、ファミリーのコントロールを保持したいというsocio-emotional wealthの考え方と整合的である。ただし、ファミリー・ビジネスは利害関係者との関係の継続性を重視するという特徴もあるので、いったん進出した地域で多様な利害関係者と関係を構築すれば撤退しにくくなるのではないかと考えられる。
もう1つは、日本の医薬品業界を分析対象として、研究開発集約度、研究開発支出あたりの特許出願件数、自己引用比率、出願特許の特許分類上の分散の程度、引用件数で測った出願特許の価値、出願特許の引用件数の度数分布の歪度について、ファミリー・ビジネスと非ファミリー・ビジネスとで違いがあるかを分析した。先行研究と同じように、日本の医薬品産業でも、非ファミリー・ビジネスよりもファミリー・ビジネスの方が研究開発集約度は低い。しかし、これはファミリー・ビジネスの研究開発活動が不活発であることを意味しない。研究開発支出あたりの特許出願件数は、ファミリー・ビジネスの方が高い。その理由は、1つには、ファミリー・ビジネスの方が研究開発の範囲を絞っているので、研究開発投資を効率よく使っていることが考えられる。もう1つの理由は、出願特許の価値の平均が低く、かつ出願特許の引用件数の度数分布のテールが短い(薄い)ので、ファミリー・ビジネスは、価値は低いが比較的高い確率で開発が達成されやすい技術を大量に開発しているのではないか、逆に非ファミリー・ビジネスは、リスク追求型の外部投資家の意向を受けて、開発の成功確率は低いかもしれないが、(ブロックバスターに結びつくような)価値の高い技術を開発しようとしていると考えられる。