表題番号:2013A-862
日付:2014/04/10
研究課題自省的なエイジェントとのインセンティブ契約における会計情報の役割
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 商学学術院 | 助手 | 若林 利明 |
- 研究成果概要
- 本研究では、これまでの伝統的なエイジェンシー理論では十分に考慮されていなかった、エイジェントの「信奉度」を非常に単純なモデルに導入し、契約に与える影響を数理的な手法で分析してきた。当初、「自省心」という言葉を使っていたが、「信奉度」の方が望ましいと考え、表現を改めた。本研究は人間のより複雑な側面に目を向けることで、伝統的なエイジェンシー理論を拡張した。そして、例えば日本企業のように固定給の割合が相対的に高く、インセンティブ係数が低くなりうることを説明した。また、理論的には、インセンティブ契約を締結した方がプリンシパルの効用は高まることが明らかであるにもかかわらず、現実には固定給契約を維持しながら相対的に高いパフォーマンスを上げている企業が存在している理由など、エイジェンシー理論の枠組みで組織や人間のより多様な行動を説明し、既存の理論と現実のギャップの一部を説明できる可能性を示した。
また、本研究のモデルは、実証研究に対しても新たな視点を提供できるかもしれない。信奉度の高さは、例えば、経営者や部門管理者が、組織の目標を何であると考え、そこから乖離する行動をとることに対する躊躇いの強さをアンケートなどによって調査することで定量化できる。そして、報酬ミックス、報酬額および株主資本価値と、信奉度の高さの関連性、あるいは固定給契約を維持しながら相対的に高いパフォーマンスを上げている企業は信奉度が有意に高いのか等を統計的に明らかにできよう。
しかし、改善の余地もある。例えば、本研究では、信奉度を客観的に検証可能と仮定したが、そうでないケースを検討することである。また、本研究は一期間のモデルを用い、信奉度を外生変数とみなしていたが、規範や信奉度の高さは、長期的には変化する可能性がある 。他には、プリンシパルのアイデンティティ効用を考慮することや、規範と業績尺度の整合性やマルチタスクのケースを検討することも考えられる。多くの課題が残されているであろうが、このことは本研究のモデルとその含意が、今後更なる発展を期待できる研究テーマであることも示している。