表題番号:2013A-852 日付:2014/04/03
研究課題ブータンにおける近代学校教育政策の変遷に関する研究-『5ヵ年計画』の分析を通して-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 平山 雄大
研究成果概要
 本研究は、無差別な教育援助を受け入れず、国家の主体性と独自性を保つ努力を怠らずにその開発を行ってきた特異な例と考えられるブータンの近代学校教育に焦点を当て、1961年より開始された『第1次5ヵ年計画』(1961-1966)から2013年に終了した『第10次5ヵ年計画』(2008-2013)までの、合計10に及ぶ5ヵ年計画(=国家開発計画)の教育に関する事項の分析を通して、同国の近代学校教育政策の変遷を明らかにすることを目的とした。
 ブータンの近代学校教育を扱った研究は国内外の研究者により1990年代前半より提出されはじめているが、資料の入手困難性を主な理由に歴史的な分析視点を持つものは少なく、また同国の5ヵ年計画を精査した先行研究も限られているため、本研究には一定の意義が見出せる。ただし、『第1次5ヵ年計画』及び『第4次5ヵ年計画』(1976-1981)に関しては、同国内に現存している可能性が極めて低く、本研究においても数枚の要約以上のものを手に入れることはかなわなかった。これらの資料の収集・分析は今後の課題として残された。
 ゆえに、本研究では上記の資料を除いた8つの5ヵ年計画の教育に関する事項を分析し、それぞれの時期の近代学校教育政策の内容、及び主に「伝統と近代の共存」というテーマを据えて全体の流れを追った。その結果、1960年代後半には、近代学校教育の拡充と伝統的価値観・文化の背反性が既に問題視されていたこと、1970年代前半には、それまでの潮流であった手厚い留学支援体制からの脱却が目指され、国内での人材育成に向けた各学校の整備が進められたことをはじめとした興味深い事象が明らかになった。また、『第5次5ヵ年計画』(1981-1987)においては、①教育の量的拡大に関する取り組み、②教育の質的向上に関する取り組みといったそれまでの5ヵ年計画を顧みたうえで設定されたもの、③経済的自立の達成との関連性、④地方分権化の推進との関連性といった同計画を特徴づける新たな開発目標・計画から派生したもの、そして⑤伝統と近代の共存を目指す取り組みという5点に大きな特徴を見出せることが明確化し、同計画がブータンの近代学校教育政策のターニングポイントとなっていることが判明した。「伝統と近代の共存」というテーマは、同計画において教育の目標として発現し、続く『第6次5ヵ年計画』(1987-1992)において開発全体の目標となると同時に、教育分野における新たなる取り組みに積極的に反映されていくことになる。
 本研究を通して明らかになった事象を文章化し公表することが、ブータンの近代学校教育を研究するうえでの共通認識の形成に役立つと考えられる。