表題番号:2013A-851 日付:2014/04/04
研究課題蕉風俳諧における季題・季語の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 野村 亞住
研究成果概要
 本年度採択された特定課題研究(新任の教員等)「蕉風俳諧における季題・季語の研究」では、主として芭蕉の一座した連句(以下、芭蕉連句)において、先行研究や従来の注釈書類によって式目に違反していると指摘がなされている箇所のうち、妥当な解釈が示されていない箇所の再検討を行った。それにより、芭蕉連句における「季をめぐる問題」の分析が進展したことが本年の研究成果である。
 まずは、阿部正美『芭蕉連句抄』(1976~1986、明治書院)島居清『芭蕉連句全註解』(1980、桜楓社)、その他の芭蕉連句の注釈書類を再度参照することにより、引用箇所の再検討と確認を行った。そのうえで、尾形仂・小林洋次郎共編『近世前期歳時記十三種本文集成並びに総合索引』(1981、勉誠社)をもとに、すでに使用していた歳時記類や連句のデータベースを照合し、芭蕉連句に使用された季語の見直しと季語調査を行った。
 芭蕉連句において式目違反とされる箇所については、ほとんどの場合で解決がつくことをすでに拙稿「芭蕉連句の季語と季感試論」(『近世文藝』90号、P1~15、2009.7.20、日本近世文学会)において明らかにしたわけだが、季語・季の句の認定とその解釈は、雑の句の存在する連句においては容易なものではない。おそらくこう解釈されての捌きであろうことは推定できるものの、なおも明確な季の解釈が示されない箇所が数カ所存在しているのが現状である。こうした式目違反箇所の検討を行うのが、「季をめぐる問題」の論文構想である。これまでの芭蕉連句および発句、また歳時記類の調査からは、これらの式目違反箇所における解釈を決定づけるものは見いだせていない。そのため、検討範囲を広げる必要があると考え、本年はこうした箇所と類似した用例がないか、季の扱いとして参考となるものがないか、芭蕉周辺の元禄俳人たちの連句や、芭蕉の師と目される北村季吟の一座した連句(以下、「季吟門連句」)、また江戸時代に出された注釈書や伝書を検討した。とくに、季吟門連句については、未翻刻資料が多いこともあり、これまで研究がなされてこなかったわけだが、科研費(研究活動スタート支援25884066「芭蕉連句における季吟の影響―季吟門連句の実態と「非季」の詞を中心に―」)に採択されたことにより、季吟門連句のテキスト化を進めたことで、今回、芭蕉連句と季吟門連句との用例の比較・検討ができた。
 現時点で直接的に式目違反箇所に参考となるような用例を見いだすにはいたっていないが、元禄俳人たちの連句での検討や季吟門連句での用例検討は、芭蕉連句の季の扱いを明らかにするのに大いに参考となった。大変有意義な研究であったといえる。今後、式目違反箇所の解決を目指し、さらに検討する用例の範囲を拡大していきたいと考えている。