表題番号:2013A-840 日付:2014/04/10
研究課題中国近世における地域意識の形成―治績の分析を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 小二田 章
研究成果概要
 本研究の目的は、中国の宋代以降の王朝が築き上げた地方統治システムと、士大夫階層による地域社会との相互性により作り上げられた伝統的秩序の解明である。本年度は、その一端を明らかにするために、宋代の地方官、特に杭州地域の地方官について、地方統治と地域意識の形成の関連を検討し、博士学位請求論文『宋代における治績と地方統治―地域意識の形成を中心に』を作成、提出した。
 その過程で、特定課題助成の関連した内容として、以下のものがある。
①地方統治と地域意識の形成についての研究整理を行い、「地方統治」研究の概念整理を行った。また、日本史・西洋史など他地域の議論の整理・比較を行い、「東アジアの近世」論についても併せて言及を行った。それぞれ、博士学位請求論文の第一部第1章「「近世」の拠って来たる基―宋代の「地域」・「地方統治」研究から」、第2章「名地方官と治績の「場」―研究史にみる地方統治」として収録した。そのうち、前者については、論文「「近世」由来之基:従宋代的「地域」、「地方統治」研究出発」(『政大史粋』25期、台北:国立政治大学歴史系、2014近刊)として刊行予定である。
②南宋期杭州で作成された二つの地方志、『乾道臨安志』『淳祐臨安志』について、その編纂背景の検討を行った。これは、博士学位請求論文の第三部第2章「乾道と淳祐のあいだ―南宋期地方志の変容とその背景」として収録した。この内容については、口頭発表「乾道と淳祐のあいだ―南宋期地方志の変容とその背景」(宋代史研究会2013夏合宿自由論題報告、於伊東山喜旅館、2013年8月)を行った。
③北宋期の代表的な地方官であり、歴史的存在としていまに名を残す蘇軾について、その業績が書かれ、伝承される過程を検討した。これは、博士学位請求論文の第二部第5章「「知杭州」蘇軾 ―地域の象徴となった名地方官とその条件」として収録した。
 以上の業績はまだ未刊行のものもあり、今後の研究のなかでさらに検討を加え、より深めていきたいと考えている。今回の特定課題助成は、主に資料調査と学会報告において、今後の研究の発展につながる一石となったと言えよう。