表題番号:2013A-832 日付:2014/04/04
研究課題アリストテレスの認識論における基礎概念の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 岩田 圭一
研究成果概要
 アリストテレスの認識論における基礎概念を明確化するために、『魂論』第2巻第5-12章における感覚一般と個別的感覚に関する論述、そして第3巻第1-2章における共通感覚に関する論述を取り上げ、研究文献を参照しながら解釈を行った。これによって、アリストテレス哲学に特徴的な「可能態-現実態」の対概念がその感覚論においてどのような仕方で用いられているか、また「共通感覚」と呼ばれる能力がどのような働きをするものであるか、そしてそれは個別的感覚とどのように関係しているかといったことに関して、一定の理解を得ることができた。
 本研究においてとくに注目したのは、個別的感覚がその対象を受容して感覚が成立するときに当該の感覚が「性質的変化」として説明されていることである。この点に関するアリストテレスの論述には曖昧さがあり、解釈者たちは、大まかに言って、感覚器官の側で物体的な次元での変化があるとするか、あるいはそのような変化は起こっておらず、魂の側で形相的な次元での変化が起こっているにすぎないとするかで分かれている。本研究では、感覚が運動として捉えられている点に着目して、「可能態-現実態」の対概念の感覚論への適用の仕方に注意しながらテクストを読解し考察を行った。その結果、後者の解釈のほうがアリストテレスの感覚論によりふさわしいものであるという見通しを得るに至った。
 アリストテレスの認識論に関する研究は本研究において着手したものであり、今後、さらに発展させる必要がある。感覚論に関して言えば、感覚は質料なしに形相を受容することであるとか、感覚は比であるといった見解について、関連テクストの読解を通じてさらに検討する必要がある。こうした継続する研究によって、本研究で得た解釈の方向性が妥当なものであることが示されるのではないかと考えている。なお、本研究は、「現実態」の哲学的意義を明らかにしようとする科研費の研究課題と連動しており、科研費による「可能態-現実態」の対概念の研究の上に成り立っていることを付言しておく。