表題番号:2013A-821 日付:2014/04/05
研究課題民事執行制度の四半世紀-その経過と展望-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 内田 義厚
研究成果概要
 本研究においては、民事執行手続のこれまでの制度や運用の変遷を振り返り、そのような変遷がもたらされたのはどのような要因に基づくかを析出した上で、これに対し、手続の担い手がどのような対応をしてきたか、その意義や今後の課題としてはどのようなものがあるかを分析検討することで、民事執行制度の歴史、現状及び課題を制度の担い手の視点から再構成することを目的としていた。そこで本研究では、制度や運用の変遷において大きな役割を果たした執行官に着目し、研究を進めた。
 まず、バブル経済崩壊直後の不動産執行事件の激増期及び執行妨害行為が跋扈した時期において、執行官が現況調査や明渡執行等で執行妨害行為に毅然と対峙することで正常な競争売買機能の回復に大きな役割を果たし、これと住専問題の社会問題化が立法府の関心を引きつけた結果、引渡命令等に関する平成8年の法改正が実現したこと、他方、執行官の業務を他の機関の職員に代替させて事件処理の迅速化を図ろうとしたいわゆる特定競売法が失敗に終わった要因は、執行官事務の困難性や専門性についての理解が不十分なまま立法されたものであることなどをまず明らかにした。
 次に、司法制度改革期以降の民事執行制度をめぐる大きな動きについて、①権利実現の実効性確保の要請の高まり、②不良債権処理に対する国民的関心の高まりと債権回収の公的性格化、③債権者像の変化、④規制緩和・規制改革路線の台頭、⑤担保権をめぐる新たな展開、⑥執行手続の担い手に対する関心の高まり、の6点に集約できることを明らかにした上、これらが底流となって平成15年及び16年の担保・執行法改正が行われ、そのことを契機に現況調査報告書の記載内容の標準化が進展し、また、執行官制度については、選考制度や手数料制の運用改善、総括執行官制度の発足、日本執行官連盟の組織改革が行われたが、これらは、前記した債権回収の公的性格化や債権者像の変化に伴って生じた競売市場の全国化に対応する動きであったこと、これによって執行官が、従来のローカルルールに基づく狭い発想から脱却する契機になったことなどを明らかにした。
 最後に、今後の課題として、前述した①ないし⑥の変革は依然として続いており、最近ではハーグ条約の施行に伴って執行手続の国際化も進展しつつあることなどが挙げられるとした上で、①執行官の役割論の再検討、②国際的民事執行への対応、③非不動産執行でのの執行官の役割の再検討、④民事訴訟手続での執行官の利用、⑤現場の発想に基づく改革の重要性、⑥執行官としてのスキル等の的確な継承、その手段としての援助制度(執行官法19条)の柔軟な運用、などを示した。