表題番号:2013A-820 日付:2014/03/08
研究課題リーマン後の新たなタイプの金融危機に対応する包括的金融法制の検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 岩原 紳作
研究成果概要
本研究は、2008年のリーマン・ブラザースの破綻をきっかけとする世界的な金融危機の反省に立って、新たな包括的金融規制の在り方を探るものである。具体的には以下のような研究成果を挙げた。
 リーマン危機が発生した原因や危機が拡大したメカニズム等につき、経済学や金融論における研究をフォローし、それらの専門家である慶応大学の池尾和人教授や日本総研の翁百合理事等と研究交流を行った。その結果、この危機の背後には、経済のグローバル化の進展、それに伴う新興国の発展と先進国経済の低迷、国際的な経常収支のアンバランスとそれに伴う世界的な過剰流動性の発生、証券化や市場型金融等の新たな金融手法や金融の在り方の進展に法制整備が十分に対応できなかったこと、等の根本的問題があることを明らかにすることができた。
 世界的にはG20の合意に基づきFSB(金融安定理事会)が、「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」という各国の立法指針の文書を策定する等、国際的な金融危機対応の制度作りが進んでいる。本研究においてはこれらの動きをフォローし、我が国における具体的な法制整備の在り方を提示した。
 このような国際的な動きを踏まえ、新たなタイプの金融危機に対応するために、アメリカがドッド・フランク法を立法したのを始め、世界各国で立法がされている。本助成の受給者は、すでにドッド・フランク法を研究して論文を発表していた(岩原紳作「金融危機と金融規制ーーアメリカのドッド・フランク法を中心に」『前田重行先生古期記念・企業法・金融法の新潮流』(商事法務、2013年)393-425頁)。しかしその段階ではドッド・フランク法に基づく規則等はまだ十分に制定されておらず、同法の具体的内容は固まっていなかった。本研究においては最近制定された同法の規則等を研究し、その他、イギリス、ドイツ等の立法も研究して、この問題に対する世界の最新の立法状況を明らかにし、そこから我が国における立法のあるべき姿を検討した。ドッド・フランク法については、同法のToo Big To Fail の問題に対する規制はあまり有効でないが、デリバティブやヘッジ・ファンドに関する規制等は、批判はあるが我が国の参考になりうること等を示すことができた。
 我が国においても平成25年の預金保険法・銀行法等の改正により、新たなタイプの金融危機に対する一定の対応がなされた。本研究においてはこの法改正の意義と将来に残された課題の研究を行った。具体的には、銀行に限らず幅広い金融機関をカバーする金融危機を生じさせかねない金融機関の破綻の危機に対する予防や事後処理につき、公的資金の投入を含めた措置を定めたこと等は評価される一方、このスキームの対象にノンバンクやファンド等が含まれていないこと、新たな市場型金融の担い手の健全性確保のための手当が不十分であることが、ドッド・フランク法等に比べても問題を残していること等を明らかにし、今後の立法課題を提示することができた。