表題番号:2013A-817 日付:2014/03/10
研究課題公海秩序の維持における普遍的管轄権の発展 -管轄権の理論的根拠の検討を通じてー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助手 瀬田 真
研究成果概要
 公海秩序における普遍的管轄権の発展についての研究とし、今年度は、船舶起因汚染に行使される寄港国管轄権に焦点をあて研究を行った。船舶の寄港した国家が外国籍船に対して行使する寄港国管轄権は、現在多数の条約において規定されたり、国家により一方的に行使されたりしている。しかしながら、このような寄港国管轄権が国際法に合致していると言えるかは、必ずしも明確にされているわけではない。これは、属地主義、属人主義、保護主義、普遍主義などに区分される管轄権の適用基準に照らして、寄港国管轄権の根拠がどのように位置づけられるのかが曖昧であることに起因している。この点に関しては、学説においても、国家実行においても、見解が一致していないと言わざるをえない。たとえば、米国やEUの寄港国管轄権の一方的な行使に関しても、当該行使が属地主義に基づくのか、それとも他の基準に基づく管轄権の域外適用とみなされるのか、また仮に域外適用とみなされる場合、いかなる適用基準に基づくのか等について議論が錯綜しているのが現状である。
 そこで、本年度の研究においては、こうした状況を踏まえ、近年の米国やEUの実行を詳細に検討することによって、寄港国管轄権の適用基準を明確にし、どのような態様の寄港国管轄権の行使であれば現行国際法に合致していると言えるのかを明らかにした。中でも、寄港国管轄権が普遍主義に基づくと考えられることから、なぜ、公海上での船舶起因汚染に対し、そのような普遍的管轄権が認められるのかの理論的根拠について考察を深めた。その結果、以下の二つの結論が得られた。第一に、船舶起因汚染により損害を被る海洋環境を保護することが、現在では国際共同体の実利的利益とみなされていることである。第二に、公海上の汚染に関しては、当該汚染といかなる連関を持っていない国家に対しても管轄権の行使を許容することが環境保護につながるということである。