表題番号:2013A-801 日付:2014/02/26
研究課題低金利・少子高齢化下での財政政策と物価への影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 准教授 上田 晃三
研究成果概要

本研究では、失われた10年(20年)の背景について、「物価水準の財政理論(Fiscal Theory of Price Level、以下FTPL)」を基礎として、人口動態と財政政策に着目しながら、一つの視座を提供する。FTPLは、Sargent and Wallace (1981), Leeper (1991), Sims (1994), and Woodford (1995)らによって発展してきた理論であり、金融政策ではなく、財政政策が物価水準を決定するメカニズムを明らかにする。例えば、財政赤字の拡大は物価水準を上昇させる。これは、財政赤字の拡大によって、家計にかかる税負担が減ることで、富効果によって家計消費が増加し、物価水準が上昇するからである。
 FTPLを用いることで、本研究では、財政政策が物価に与える影響について理論的に分析し、わが国経済についての含意を考察する。同理論は、金融政策をパッシブと捉える点で、名目金利のゼロ制約に直面したわが国経済の現況と整合的である。具体的には、わが国経済をより良く捉えるモデルを構築するため、FTPLを以下の2点で改良する。第1に、世代重複モデルに変更する。これまでの研究は無期限期間モデルを用いることが多い中、本研究では、若年・老年世代を明示的に分け、人口動態が財政政策や物価に与える影響を考察するために、FTPLを世代重複モデルに応用する。第2の改良は、財政政策の内生化である。政治経済学的手法を用いて、政府は、若年と老年世代の効用の和を最大化するように、税金と国債発行額を内生的に決定するとする。この際、政府は、自身の政策が物価に与える影響も考慮に入れる。一方、政府支出は外生とする。
 こうした改良を施すことで、「少子高齢化が財政政策を通じてデフレを生む」という結果を導いた。少子高齢化が進むと、老年世代の割合が大きくなるため、彼らが政府に与える影響も相対的に大きくなる。老年世代は、自身が若年の時に購入した国債の実質価値を増大させるために、物価下落を選好する。したがって、政府は若年世代に課す税金を増やすような政策を選択し、デフレが生じることになる。こうした結論は、財政赤字がインフレを生むという、標準的なFTPLから得られる結論とは対照的である。