表題番号:2013A-6479 日付:2014/04/05
研究課題韓国における生活陶器の考古学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 佐々木 幹雄
研究成果概要
本研究は韓国の生活陶器である甕器を考古学的に調査、研究するものである。今年度は基礎的研究として、まず、2013年8月に蔚山市蔚州郡外高山にある甕器博物館、同年12月にはソウルにある甕器民俗博物館を中心に甕器の種類・器形・用途について調べた。以下はその調査報告である。
 甕器の種類としては、チルグルと呼ばれる無釉軟質瓦器、無釉硬質還元焔陶器、オジグルと呼ばれる藁灰を使ったいわゆる会寧焼、天目釉(鉄釉)を掛けた「石間朱」、そして腐葉土を使った通例のオンギなど施釉の陶器が存在することを改めて確認した。量的に多いのは通例のオンギであるが、藁灰釉と天目釉はいわゆる民藝陶器の釉薬として日本に大きな影響を与えた釉薬である。
 器形として、圧倒的に多いのは甕形、壺形で、まさに「甕器」と呼ばれる所以であり、次いで、碗・丼形の食器が多い。また、特定の用途のため特有な形の甕器も少なからず見られる。とくに、焼酎の蒸留器、各種蒸し器、蜂蜜収集器、保温器などはその例であり、機能を重視した形となっている。さらに、貯蔵や醸造に使う甕や壺でも、内容物、例えば、にがり、松脂、白菜、大根、立ち魚、小エビ、オキアミなどによりその形に違いがあるのも興味深いことであった。韓国の甕器文化の多様性を物語るものである。
用途としては、甕形、壺形、碗・丼などの貯蔵、醸造・発酵、食器など韓国の食文化に関連するものが圧倒的に多い。次いで、多いのは加熱・耐熱用で、台所に置かれて調理に使われる鍋を筆頭に、薬湯器、火鉢、七輪、さらに、耐熱としての煙突、保温器などがある。その他、水、酒、尿などの液体物を運ぶ運搬器、長鼓、「水太鼓」のような楽器、硯、水滴、筆架、筆立、文鎮などの文房具、薬研や薬尿瓶などの医薬器、その他、風呂桶など実に多種、多様である。まさに、甕器は人々の生活の隅々にまで入り込み、生活の基盤を支えた雑器といえる。
生活容器に占める甕器の役割を素材から考えた場合、やはり、貯蔵、醸造・発酵機能に優れていることがあげられる。食器や文房具、加熱容器、楽器などは甕器以外でも白磁、青磁といった焼物、鉄、真鍮といった金属器でもつくられるが、ともに材質が緻密であるため、醸造・発酵には向かない。
甕器が貯蔵、醸造・発酵に優れている理由は高い通気性にある。甕器に通気性が生まれるのは、甕器の素地は水簸せず、焼結の弱い酸化焔で、しかも1200℃以下の低温で焼くためである。器壁に気孔が残り、通気性が確保されるという。通気性は金属器や白磁器にはない、甕器特有のものである。
今回の研究は、甕器の種類、用途、器形とともに、雑器の素材の特性をも確認することにあったが、今後は、甕器の文様、装飾など製作技術にも視野を広げてゆきたい。