表題番号:2013A-6470 日付:2014/04/11
研究課題素数レベルと素数指数を持つヤコビ形式上における跡公式の楕円項の記述
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 坂田 裕
研究成果概要
年度当初に計画した通り,素数レベルと素数指数を持つヤコビ形式上に作用するヘッケ作用素の跡公式の楕円項の計算を行った.
ただ,それを構成する2次形式の類数上でレベル構造からの寄与と指数構造からの寄与が同時に現れて混じり合うために,楕円項を
十分に整理された明示式で記述するところまでは到達出来なかった.そこで,(同じ様に分岐表現で記述される)素数冪レベルで
指数1を持つヤコビ形式上の跡公式の楕円項が元の楕円項と類似の構造を持つことを予想し,素数冪レベルで指数1を持つ場合の
楕円項を精密に計算することでその明示式を与え(これは前年度までに得ていた研究成果をより精密に計算して整理・簡略化する
ことで与えた),そこから元の楕円項の式構造を推測した.なお,その結果と併せて,次の結果も与えることが出来た;
(1)  素数の奇数冪レベルで指数1を持つヤコビ形式上の跡公式の楕円項とその素数の偶数冪レベルで指数1を持つヤコビ形式上の
   跡公式の楕円項の間に成り立つある種の美しい関係式を発見し,その関係式が双曲項,放物項,スカラー項上でもそれぞれ
   成り立つことを証明した.また,その関係式の中に現れる項の一部分を,楕円保型形式に作用するヘッケ作用素とアトキン・
   レーナー作用素の跡公式を用いてより明示的に表現することも出来た.これらの成果から導かれる現象の一部は,半整数の
   重さを持つ保型形式上の跡公式の中でも見られる現象と類似なものであり,結果としてヤコビ形式と半整数の重さを持つ保
   型形式が持つ共通の構造を跡公式から浮かび上がらせることになった.
(2)  (1)で与えられた成果を用いて,レベル-指数変換写像が定義出来る素数の奇数冪レベルで指数1を持つヤコビ形式の空間を
   実現し,その上でその変換写像を具体的に構成した.この空間はある種のヤコビ・オールドフォームからなる空間の補空間
   (ヤコビ・ニューフォームからなる空間)として定義することも出来る.また,(1)の成果を分析することにより,素数の
   偶数冪レベルで指数1を持つヤコビ形式上では,この様な変換写像が定義される空間を同様の手法で実現することは出来
   ないことも確認した.

以上の様に本特定課題研究では(当初の目的までは未だ到達していないもののその過程で)非常に本質的な幾つかの結果を導き出す
ことが出来た.これらの成果は下記の研究講演の中で順次発表してきており、(論文化に向けて)より一般化すべく取り組んで
いるところである.