表題番号:2013A-6456 日付:2014/04/03
研究課題幼少期より複数言語環境で成長した早稲田大学学生の言語能力意識に関する質的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 川上 郁雄
研究成果概要
 本研究は、本学に在籍する学生や教員の中で、幼少期より日本語とそれ以外の言語の複数言語環境で成長した人とその家族の言語能力意識に関する質的研究調査である。
 近年、グローバル化と人口移動にともない、親とともに国境を越え移動し、その結果、幼少期より複数言語言語環境で成長する子どもが世界的に増加している。このような背景を持つ学生や留学生が本学にも多数在籍している。そのような背景を持つ学生の中には、英語など日本語以外の言語が強く、逆に日本語が弱い学生や、あるいは複数言語とも自信が持てない学生もいる。その背景には、移動にともない教育が分断されたり言語使用環境が変化するなどの実態もある。では、これらの学生は大学生活やこれからの人生においていかに生きようとしているのか、また、これらの学生を大学はどのように受け入れ、教育を行うことが必要なのか。本研究はこのような問題意識から、本学に在籍している、幼少期より複数言語環境で成長し、かつ大学において活躍をしている学生等を対象にした調査を行った。調査協力者として、スポーツ科学部に在籍し、ロンドン・オリンピックで活躍したディーン元気さん、ノルディック・スキーで活躍するレンティング陽さん、そのほか、幼少期に日本に来て成長しポルトガル語と日本語を使用して生活している理工学部の助手の方、ポーランド語と日本語を使用しながら日本で成長し法学を専攻し、研究所の助手となった方、さらに中国語と日本語を使用しながら成長した学部学生、アメリカで高校を卒業したのち本学に入学した日本人学生など多様な人たちを選定し、それぞれのライフストーリーを語ってもらった。そのうえで、それぞれの調査協力者の家族にも話を聞いた。その結果、子どもから見た複数言語生活と、親が子どもをどのように教育をしようと思っていたのかなど、親の教育観、親子関係から子どもの主体的な生き方までを詳しく尋ねることができた。
 本研究の成果は、幼少期より複数言語環境で成長する子どもは学校やほかの子どもとの関係から自らの複言語能力についてさまざまな意識を持つこと、そしてそれが成長過程が変化していき、かつ自己形成に大きな影響を与えること、また親は子どもが複数言語環境で成長することをはじめからどのように考え、子育てを行ってきたのかというのは、それぞれの家族によって異なり、それぞれが子どもの成長に影響してきたこと、また親も子どもの成長につれて複数言語環境で成長する子どもについて理解が深まり、時には親も子どもの生き方や人生について子どもとともに悩むことがあることがわかった。本調査から、大学に入学する学生の生き方やアイデンティティ形成を振り返り、自らの複言語能力をメタ的に捉え、かつ人生を総合的に捉える力を育成することが重要であり、そのための大学教育をどう構築するかが今後の課題であることがわかった。