表題番号:2013A-6454 日付:2014/03/05
研究課題原子力発電の安全規制と社会的能力に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 松岡 俊二
研究成果概要
 2012年9月に発足した原子力規制委員会(NRA)の社会的評価を、主に独立性(政治的、行政的、人事・財政)と透明性(情報公開)という2つの基準から分析を行った。その結果、既存の原子力推進機構・行政からの独立性(行政的独立)は一応達成されたものの、環境省の外局としての位置づけには一定の懸念が残ると評価した。また、政治的独立性は確保されているが、人事的・財政的独立性には疑問が残ると評価した。透明性と言う点では、意思決定過程の情報開示、国会への報告義務、推進組織、事業者、政治家などとの交渉記録の作成と公開、委員の国会同意人事という4つの項目で評価し、全て基準を満たしていると評価した。
 このように、現時点では、原子力安全規制については、原子力規制委員会(NRA)がやるべきことは、NRAとしてかなりの部分は良くやっていると評価出来る。もちろん、現在の日本的な段階的分節的な安全規制を、より総合的な包括的なリスク管理型安全規制に移行し、自発的環境イノベーションの誘因を組み込んだ制度デザインを構築するといった大変大きな課題や人材育成の問題は残っているので、しっかりとみていく必要がある。
 しかし、NRA以外の国(政府、国会、司法)、地方自治体、企業・産業、大学・学会、マスコミ、市民社会が、広い意味での原子力リスク・ガバナンスのなかで果たすべき責任や役割は、現状では極めて不十分にしか果たされていないと考えられる。特に、原発立地地域の避難計画などの地域対策・オフサイト対策、市民や国際社会とのリスク・コミュニケーションのあり方、原子力をめぐる安全文化の構築などをめぐる垂直的・水平的なステークホルダー(社会的アクター)との関係性の整理・調整と恊働関係の構築といった課題は、課題としてもまだ十分に成熟した形で設定できていないし、当然ながら、こうした課題解決へ向けた社会的営為は今後の大きな宿題である。
 もう一方の研究テーマである福島復興の状況については、ある意味で、原子力安全規制の問題よりも深刻な状況にある。地に足の着いた形で、なおかつ普遍的な価値をもった福島(「フクシマ」)復興モデルを、Resilience, Sustainability, Diversity, Innovationといった4本柱を中心に具体化することを検討してきた。その際、天災と人災の複合災害である福島原発事故を21世紀型災害の普遍的なケースとして把握し、こうした21世型災害を予防し、災害に抵抗力があり、持続可能な地域社会を「多様性を生かした地域イノベーション」によって構築し、そうした「フクシマ復興モデル」を点から面へと広げる制度改革・制度構築(社会イノベーション)のあり方を、その担い手(プレイヤー、アクター)のあり方も含めて構想している。