表題番号:2013A-6446 日付:2014/04/10
研究課題アジアの平和構築における効果的な能力構築支援に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 准教授 上杉 勇司
研究成果概要
本研究の採択助成額は27万円であった。その財源を有効に活用するために、本研究を推進する上で最も重要な現地調査の実施に、この財源を充てることとした。民主化の兆しが現れ、政治体制や社会に変化が起こりつつあるミャンマーを事例に据えることにした。今この時期に実際に現地を訪れ、変化の流れを自分の目で確かめるとともに、現在進行形の民主化の状況を現地の視線で理解することは、本研究を進める上で極めて有意義であった。とりわけ、躍動するミャンマーにおいて、アジアの平和構築の実際・実務に関与する人材への聞き取り調査や意見交換を行うことで、まだ書籍や論文などでは、窺い知れない最新の動きや内情を知ることができた。

次に、具体的な成果を簡潔にまとめてみたい。軍事政権が柔軟化し、徐々にではあるが、民主化が進むなかで、現地調査は、ヤンゴンにて実施した。ミャンマーの首都はネピドーに移されたため、ヤンゴンは、もはや政治の中心ではなかったが、ヤンゴンには引き続きミャンマーの発展の牽引力となっている「活気」が伺えた。軟禁状態を解かれ政治活動を再開したアウンサンスーチーが率いる国民民主連盟本部においても、融和ムードで包まれ、軍事政権に対峙した際の緊張感はなかった。公然と軍事政権に対する批判や国民民主連盟への支持表明も可能であり、平和構築に関与する政府関係者からも、より客観的な軍事政権の施政に対する分析が提供された。

民主化が始まる以前の軍事政権下のミャンマー政府と国際社会との関係、特に軍事政権に対して民主化や自由化を迫る欧米諸国との関係は、険悪なものであった。例えば、2008年の大型サイクロンによる災害時に両者の関係は緊迫化した。そのようななかで、ミャンマー政府は中国との関係を深めつつ経済発展を目指していた。昨今の民主化の流れを受けて、欧米資本がヤンゴンを中心に流入しつつあり、ヤンゴンでは建築ラッシュとなっている。しかしながら、平和構築という観点から、あるいは軍事政権からの民主化という側面については、不安材料が多く、現地において平和構築や民主化を支援する専門家からは、国際社会との共同作業としての平和構築や民主化を担う人材がミャンマー政府側に不足している点が指摘された。平和構築や民主化が成功する鍵を握るのは、ミャンマー社会が主体的にそのような変化を率いていけるか否かという点にある。そのためには指導部の政治的な意志に加えて、それを政策にして実務的に支える公務員や不正を監視する市民社会の成熟などが求められる。国際社会との対峙、あるいは国内における異なる勢力間の対峙、といったゲームのルールから、国際社会との協力や民主的手続きを通じた国内の異なる意見調整といった新しいゲームのルールが必要となってくる。今回の研究(特に現地調査)を通じて、明らかになった課題は、暫時的な変化として進んでいる中央の政治の領域と外的な刺激を受けて急激に変化しつつある経済的な側面との齟齬やギャップが新たな社会問題を引き起こす恐れがあるという点である。新しいゲームのルールを中央の政治まで浸透させ、平和構築と民主化を促進する人材を政府の中と外に集めていくことで、このような課題を乗り越えることができるのではないか。