表題番号:2013A-6435 日付:2014/03/16
研究課題「サヘル地域政治経済情勢分析」(政治的に不安定な状態にあるサヘル地域に関する調査)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 片岡 貞治
研究成果概要
今年度は、フランスに訪問し、フランスにおけるサヘル情勢専門家や政府関係者と意見交換を行った。
フランスのオランド(François Hollande)大統領は、2013年1月11日に、軍をマリ北部の紛争に介入させる決断を行った。
この軍事介入の目的は、マリの国家主権と領土の一体性を確保し、マリ北部を支配している複数のイスラム系ゲリラ、アンサール・ディヌ(Ansar Dine) 、MOJWA、AQIMの兵士の南部への進軍を阻止し、駆逐することにあった。マリ北部におけるジハーディスト、イスラム過激派に対するフランスの軍事介入は、不可避であった 。
フランスの軍事介入は、ニジェールにおけるウラン鉱山の保護やアレヴァ (AREVA)の原子力利権の確保のためと訝るジャーナリストや評論家も多くいたが、それはきわめて短絡的な分析にすぎない。フランスは、マリのトラオレ(Diocounda Traoré)暫定大統領や近隣諸国の要請から、マリの政治秩序を取り戻すために、ほぼ単独でこのリスキーな介入を承諾したのである。
フランスが介入の決断をする以前に、マリ北部は無政府状態であった。マリ政府は、1990年代以降、トゥアレグ族との和平合意を調印しながらも、長きにわたり、北部に対して効果的な政策は施してこなかった。AQIMは、マリ北部が無政府状態化している間隙を突き、北部の山岳地帯を本拠地とした。さらにマリ北東部には、水の出るイフォガス山地があり、拠点を築くには好都合であった。
AQIMは、10年以上にわたり、ヨーロッパ人の誘拐の身代金や麻薬・武器取引などで、巨額の財を築いていた。AQIMは、伝統的にサハラ砂漠地域の密輸に長け、砂漠に精通しているトゥアレグ族を抱き込み利用していった。AQIMは、トゥアレグ族の雇用者のごとき存在となっていった。当初のAQIMの政治的目的は、アルジェリア政府を打倒し、イスラム国家を樹立し、ジハードを広めることであったが、近年は、サヘル地域にパニックを巻き起こすことを目指している。問題は、テロリスト集団であるAQIMの台頭と拡大をいかにして阻止するかということにある。現在、AQIMをはじめとしたジハーディストは、マリ北部だけでなく、西部アフリカのサヘル・サハラ地域を超えて、その広がりを見せている。
この地域の脅威に対して、サヘル地域の諸国が講じた対応策は、同地域の軍事化であった。サヘル地域諸国の役割は、仏軍との共同作戦と仏軍撤退後の地域の治安維持である。フランスの軍事介入直後、マリには4000名の仏軍兵士と6000名のアフリカ諸国の兵士が上陸した。チャド兵2000名とECOWAS諸国の兵士4000名が、2012年12月に採択された国連安保理決議2085によるアフリカ主導国際マリ支援ミッション(AFISMA)を構成し、マリの治安維持を行った。その後、2013年4月に採択された安保理決議2100により、AFISMAを引き継ぐ形で国連マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)が組織され、2013年7月から活動を開始した。MINUSMAは軍事要員1万2640名、駐留仏軍部隊約2500名から構成されるPKOで、国連決議に基づき、戦術レベルの武器使用を超える武力行使を並行部隊である駐留仏軍部隊に認めた強靭なPKOである。
AQIMらのサヘル地域のジハーディストの活動は、フランスやMINUSMAの掃討作戦によりある程度弱体化したものの、依然として、脅威であり、予断を許さぬ状況下にある。マリ、サヘル地域の近隣諸国やフランスのみならず、国際社会全体で、緊密に協力しあいながら、掃討作戦も辞さないという厳しい態度で、ジハーディストの台頭と拡大の防止に対処していかなければならない。一方で、安全保障の強化だけでは不十分であり、北部の空洞化を防ぐためにも、マリ北部の根本的な解決には、南北間の富の配分の不均衡を是正することが必要である。とりわけ、北部のインフラ整備や社会開発が急務であり、持続可能な開発を目指した様々な支援を国際社会全体で行っていかなければならないであろう。