表題番号:2013A-6432 日付:2014/04/07
研究課題中国の国際法観と外交政策に関する序論的考察:南シナ海と北極海を例として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 池島 大策
研究成果概要
 中国が国際社会において新たに台頭してくるに従って、海洋秩序にも大きな変動が生じつつあると言われる。中国の意図するところが現状の変更を伴う秩序への挑戦であるという事例には、南シナ海におけるU字型線による自国権益の主張と、航路探検を含む北極海への積極的な進出とが、同じような類の行動として挙げられる。確かに、これらの行動は、自国からの距離が相当にある広範囲の海域に対して、自国権益を主張するかのような行為とみれば、似ていない訳でもないであろう。しかし、実は、これらの行動と場所における中国の主張やその根拠などには、巷で報道されたり、問い沙汰されたりしているような関連があるわけではない。むしろ、根拠の脆弱で、いくつもの誤解や不信感に惑わされたような議論や言説に影響を受けているものが少なくない。
 南シナ海における領土・海洋紛争は、中国が、その歴史的な沿革に基づき、中国を含むアジア固有の地政学的事情にも由来した諸要因によって、最近海洋権益の確保において確固たる信念と相当の実力によって新たに進出し、自国にとって不都合な現状を改変使用する動きについて、現状を維持こそが自国に都合がいいと考える海洋大国とその利害関係諸国との間に、軋轢が生じている状況をどうみるか、という視点の違いが根本にある。
 他方、北極海について、中国がこれまで南極における科学調査の推進と同様に、北極海にて長らく行ってきた調査研究に照らして、環境や科学に関連する調査船の派遣や航路の開発は、関連する国際法規に違反することなく行われてきており、中国が展開すると言われる北極外交なる北極圏諸国との密接な関係作りも、警戒心よりもある程度の歓迎をもって行われている点に留意すべきである。つまり、北極圏の経済開発における中国の資本の重要性は関係諸国からは警戒心を超えるほどに魅力的ともいうべき素性があるのが現実である。
 こうした現状を踏まえると、中国の海洋進出という単純な図式だけで捉えることのできない動きが現実にはあるこことがわかるが、これを単なる力による現状変更をもたらす脅威と考えるのではなく、資本や技術を背景とした活発な主体どうしのダイナミックな秩序作りの相克(特に超大国の出現と衰退を伴う変動)という側面を国際関係に読み取る視点が重要であろう。