表題番号:2013A-6431 日付:2014/04/01
研究課題アフリカ系アメリカ文化におけるイスラム思想の影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 麻生 享志
研究成果概要
 近年、これまで研究対象として見過ごされてきたイスラム思想・文化のアメリカ文化への影響が注目を集めている。この文化的動きの主たる牽引者は、中近東系移民というよりも、むしろ現在10万人を超えるアメリカ・イスラム人口のおよそ四分の一を占めるというアフリカ系アメリカ人である。
 例えば、今や若者文化を代表し、アメリカ国内のみならず日本等アジアを含め世界文化に成長したヒップホップだが、アフリカ系を中心とするヒップホップ音楽制作者や映画監督には、イスラム教信者が少なくない。とくに、ムスリム・ラップと呼ばれるヒップホップ音楽は、イスラム布教の媒体として用いられ、都市部に住む若いアフリカ系アメリカ人に強い影響を及ぼしている。
 なかでも注目すべきは、Five-Percent Nation と呼ばれるイスラム教グループである。1930年代に Wallace D. Fard Muhammad によりデトロイトで設立された Nation of Islam は、1960年代に入ると Elija Muhammad の下、Malcolm X らいわゆるカリスマ説教師の影響もあり、多くの信者を獲得した。その一人、Clarence Xが NOI を脱退し、Five-Percent Nation を設立したのは1964年のこと。以来、ニューヨーク・ハーレム地区を拠点にその活動を広げ、多くのアフリカ系アメリカ人信者を獲得していく。
 このFive-Percent Nation において興味深いのは、その活動が宗教活動に留まらず、ヒップホップを中心とする音楽・芸術活動に波及している点である。アルファベットや数字を象徴的に用いることで、Five-Percent Nation ならではの宗教思想を容易にヒップホップの歌詞に織り込むことに成功したこともあり、Brand Nubian、Wu-Tang Clan、Lakim Shabazzら主流文化からも注目されるラップ・アーティストを多く輩出することになる。
 また、俗に「ヒップホップ・ジェネレーション」と呼ばれる公民権運動以降、レーガン政権第一期(1965-84)までに生まれたアフリカ系アメリカ人の間で強い影響力を持つSpike Lee、Sister Souljahらは、映画・文学を通じてアフリカ系アメリカ文化におけるイスラム思想・文化の影響を顕在化させた。特に、Sisiter Souljahの小説 Midnight and the Meaning of Love (2011) は、ニューヨーク、そして日本を舞台に、スーダン出身の Five-Percenter、Midnight と日本人女性Akemi の恋愛・家族関係を軸に、日米間の文化の移動と混成をイスラム文化の浸透を含め展開していく興味深い内容を持つ。
 実際、アメリカにおけるイスラム系ヒップホップ文化の展開には、アジア系文化の影響も大きく、Staten Island 出身のWu-Tang Clanは、カンフーを創作的イメージの原動力に活用し、Five-Percent Nation ならではの語彙に加え、東洋的な言語、あるいはコンピューターゲーム等のイメージを活用することで、独特の文化的立ち位置を築くに至っている。

 本研究では、20世紀後半にイスラム思想の影響を受けながらアフリカ系ストリート文化として始まったヒップホップ文化を研究するなかで、それが東洋文化をはじめとする更なる異文化との接触を経て21世紀型の新しい混合文化として成長・発展していく様相を確認した。今後は、この独自の展開を見せるアメリカにおけるアフリカ系イスラム文化が、主流文化のなかで如何なる意味を持つのか、そして、他文化へどのような波及的影響を持つのかを考察の対象としたい。