表題番号:2013A-6404 日付:2014/03/10
研究課題年輪年代学的手法による一ノ目潟湖沼年縞の編年精度の検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 助手 山田 和芳
研究成果概要
本研究の目的は、秋田県一ノ目潟に現堆積している湖沼年縞堆積物の年縞計数による編年誤差の程度を知るために、年代誤差を持たない樹木年輪年代学の手法を用いて検討することである。その上で、将来的には年縞気候学という新分野開拓の足がかりにするものである。
本研究課題では、まず現地調査をおこなった。2013年6月にリミノスコアラーによって、ミニアイスフィンガーコア堆積物の採取をおこなった。合計3本の良質なコアを採取することができた。コアは、採取後すぐに、鉛直方向に2分割して、堆積断面をデジタルカメラによって画像保存後、半分は年輪年代学的手法用に残し、残りの半分を堆積物薄片作製用、鉛・セシウム年代測定用にケースなどを用いて分割した。年輪計測システムおよび堆積物薄片の観察から年縞の層厚をもとめ、それを基準にして、2006、2011、2012年にすでに採取している同地点のコアの年縞と比較した結果、年縞の年毎形成が確実に確認された。これは、日本の湖沼では初めてであり、世界でもフィンランドの年縞に次ぐ結果である。
 さらに、年縞計数の確実性を検証するために、セシウム-137年代測定を実施した。その結果、一ノ目潟の堆積物では、セシウム-137濃度は、1954年から増加し、1963年に増大ピークを取ることが明らかになった。この変動傾向は、1960年代前半の水爆実験に由来するものと考えられ、一ノ目潟の年縞年代が極めて確度があると証明できた。
次に、このように信頼度が高い一ノ目潟の年縞編年のひとつの応用例として、挟在タービダイト層を用いた古地震記録に関する研究をおこなった。一の目潟堆積物には、上方細粒化構造を持つタービダイト層が年縞堆積物中に数多く挟在している。このタービダイト層の成因については,一般的に,洪水,地震,津波,波浪等と諸要因があげられるものの,一の目潟の地形等を考慮に入れると地震によって形成されたものと判断できる。その結果、1910年までの期間において、6枚の上方細粒化構造を持つ単一タービダイト層と、1枚の砂泥互層になっている複合タービダイト層が確認できた。年縞編年に基づくと、単一タービダイト層の形成時期は、上位から西暦1983 年、1964年、1945年、1939年、1935年、および1914年であることが明らかになった。これらの堆積年代と過去100年間における男鹿半島付近で起きたマグニチュード6.0以上の巨大地震を比べると、その多くが対応していることがわかり、1983年5月26日の昭和58年日本海中部地震(M7.7)、1964年5月7日の男鹿半島沖地震(M6.9)、1939年5月1日の男鹿地震(M6.8)、1914年3月15日の強首地震(M7.1)と確実に対応していることが明らかになった。つまり、一ノ目潟の年縞堆積物では、日本海東縁部秋田沖の海底地震や、内陸部で浅い深度を震源とする地震を推定できることが示唆された。さらに、タービダイト層の層厚と震度の関係を検討した結果、一ノ目潟において最も揺れ(震度)が大きかった1939年の男鹿地震では、タービダイト層の層厚が最も厚くなっている。このことから、タービダイト層の層厚から強震強度などを復元することができる可能性がある。一方、1916 年に堆積した複合タービダイト層は,同年ごろに行われていた農業用の取水トンネル工事の影響によるものである。このように一ノ目潟の年縞編年によって復元した堆積物記録は,歴史記録と一対一で対応していることが明白である。今後、有史以前に環境変動を高精度に読み解く可能性が秘められている。