表題番号:2013A-6403 日付:2014/04/11
研究課題熟達設計者の設計知識の表出と行為モデルに基づく知識共有による設計力向上の評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 助手 村松 慶一
研究成果概要
日本の製造業が競争力をつけていくためには,品質,コスト,納期を確保する必要性が指摘されている.製品開発を行う中の上流工程となる開発・設計においては,設計品質の向上および設計力向上を目的として(1) 設計の自動化,(2) 設計ミスの撲滅,(3) 設計資産の再活用といった設計業務の効率化が多くの企業で取り組まれている.(1) 設計の自動化に必要な諸々の数値解析や数値制御のためには,人が設計の中で行っていることを形式知化する必要がある.(2) 設計ミス撲滅に関しては,設計の開始前,途中段階,最終段階のそれぞれにおいて設計者および設計関係者が設計情報のレビューを行いながら,情報の共有を行う必要がある.(3) 設計資産の再活用については,設計資産の蓄積を図りながらデータベースの整備を行う必要がある.これらの取り組みにおいて共通した課題は,人が設計する際に用いる経験やノウハウといった暗黙的な知識を明示的に記述し共有するということであり,それを阻害している最大の要因は,設計に関わる知識が設計者の熟達レベルに強く依存していることである.そこで,本研究では,設計力向上に向けて熟達者が行っている設計方法に関して,設計者が持っている知識とノウハウを表出し,共有,伝承することを目的とした.具体的には,半導体基板の設計を題材として(1) 設計者の観点による設計行為(知識)の表出および設計行為モデルの記述,(2) 設計行為モデルに基づいた設計品質および設計力向上の実務的な評価である.

本研究の成果は,設計力向上に向けて熟達者が行っている設計方法とその知識を表出・共有するための設計行為モデルの構築である.このモデルは既往研究で提案されている人間行動モデル CHARM(Convincing Human Action Rationalized Model)に基づいている.既往研究では看護行為を対象にして看護をする動作を扱ったのに対して,本研究の設計行為においては設計者の思考過程を扱った点が異なる.まず,設計者が設計行為を行う際に使用する設計手順書,設計基準書,そして作業マニュアルをもとに設計行為を熟達者の視点から整理することによって,設計の熟達者が何を考えて設計を行っているかということを明示することができた.さらに,構築した設計行為モデルの有用性を検討するために,(1) リファレンスを与えない初心者,(2) 作業マニュアルを与えた初心者,(3) 設計行為モデルを与えた初心者,(4) 熟達者による設計データを比較した.その結果,構築した設計行為モデルは初心者が設計に対する理解を進めるために有用であることが示唆された.ただし,同一の実験参加者の設計経験,参照するリファレンスの情報量の差による影響が明確でないという点が今後の課題として残されている.