表題番号:2013A-6381 日付:2014/05/07
研究課題大人数授業におけるラーニングポートフォリオの活用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 尾澤 重知
研究成果概要
大学教育の授業実践において、授業内容や自身の学習経験に対するリフレクション(内省)を促すことは、授業内容の理解促進のため重要である。リフレクションとは、自分自身の考え方を吟味し、良い点や改善点を考え工夫をすること(三宅 1997など)を指し、「内省」、「省察」、「再吟味」とも訳される概念である。本研究では、リフレクションを支援する方法の1つとして、ラーニング・ポートフォリオに着目した。ラーニングポートフォリオは学習成果物やそのプロセスを記録・蓄積し構成され、自身の学習記録として学習内容を整理する活動のことを指す。
本研究では、2014年春学期、秋学期にそれぞれ開講された授業を研究対象とした。研究対象の授業実践では、「講義」と「演習」(個人のライティング課題とグループワーク)のバランスを図っている点に特徴があり、毎回A4サイズ1ページの用紙に個人の考えや、授業への疑問、質問などを特定のフォーマットで記入させている。本研究対象では、これらを「演習・ミニッツペーパー」と呼び、毎回の授業で、必ず手書きで記入をさせている。しかし、過去の授業では教員が用紙を回収し、学生の理解状況を把握したり、共通する質問に対して次回授業等で回答するだけにとどまっていた面があった。
これを本年度は、毎回の授業でスキャンし、電子化した上で、学生に対しては学期末に返却を試みた。電子化することで、人が手作業で仕分けすることなく、ラーニング・ポートフォリオ(個人の学習記録)として学生に返却し、ポートフォリオをもとに学生にリフレクションを促すことが可能になる。
本研究では、毎回の「演習・ミニッツペーパー」をはじめ、「授業内の質問紙調査」「学期末レポート」などのリソースを対象として量的・質的に評価を行った。2014年度春学期、秋学期の授業とも同型式で「演習・ミニッツペーパー」を実施し、学期末の授業では、返却したポートフォリオに基づき、グループディスカッションを促している。さらに、学期末レポートでは、授業中取り組んだ演習や取り組みを、自己評価させる課題を実施しており、多様なデータを取得することができた。
成果についてはこれまで何度か学会発表等を行っているが、現在、試行的な評価として、リフレクションの度合いを4段階の指標(ルーブリック)を用いた研究を進めている。試行的な評価の結果、「演習・ミニッツペーパー」を学期末に返却し、これをグループワークや学期末レポートと組合わせることによって、おおよそ8割の学生に肯定的な影響が見られた。すなわち昨年度よりも、レポートの質や授業全体の振り返りの度合いが向上している傾向が見られた。質的研究の精度を向上するため、現在これらをテキストマイニング等を用いて定量的に計測し、実証する研究を進めている。
本研究室の博士後期課程(D2)の森裕生も、ラーニング・ポートフォリオに関する研究を行っていることから、森とも協力しながら、成果を論文もしくは国際会議等で発表していきたい。