表題番号:2013A-6374 日付:2014/03/29
研究課題小学生における集団の統合化過程:震災避難児の人形劇づくり活動を通じて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 根ケ山 光一
研究成果概要
本研究は,2011年3月11日に発生した地震とそれにともなう津波・原発事故によって,自宅を離れることを余儀なくされ,関東に逃れてこられた家族の支援活動の一環として,都内で人形劇活動を続けてきているNPOの協力のもとで行った子ども達の人形劇づくり活動を通じて,子ども達の相互作用の変化や集団形成過程を明らかにしようとしたものである。我々の呼びかけに応じて参加したのはあわせて4家族8人の子ども達であった。子ども達は通常は親に伴われて参加し,子どもは人形劇づくり,親はその傍らでインタビューと育児相談という2焦点活動を行った。参加を呼びかけ「劇団」を結成した当初は,子ども達は親の方を頻繁に振り返るなど不安な様子がありありと見て取れ,親も子どものことが気になって見つめるというように,親子が分離しがたい状況であった。しかし劇団名を相談したり出し物のストーリーを考えたりするなかで自発的にリーダーシップをとる子どもが出てきて,徐々に求心性と自我関与度が高まっていった。それは子ども達が相互に下の名前で呼び合うという行動に象徴的に表れていた。そして,練習場での練習だけではなく,自宅においても自発的に練習することも見られた。子ども達のなかに一人障害児がいたが,その児童も含めて皆熱心に練習に取り組み,相互的な効果を生んでいた。最後に練馬区で行われる人形劇祭に参加し自分たちの演目を無事上首尾に上演したことは,子ども達とその親にとって大変充足的な体験となった。どの子どももほとんど一度も休むこともなく,今後も参加し続けたいという意見表明があったため,第二次の取り組みへと歩を進めているところである。この過酷な時期(私達のもう一つのアンケート調査では,関東避難家族のなかに高いストレスを抱えている子どもが一定数いるという結果が得られている)に我々が行った支援がこの子ども達と避難家族に何をもたらしたかについては,さらに長期にわたって追跡調査を行う必要がある。