表題番号:2013A-6368 日付:2014/04/08
研究課題加齢に伴うストレッチング効果の違いを神経生理学から探る
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 鈴木 秀次
研究成果概要
筋の長さ変化を検出する筋紡錘は加齢によって形態と機能が変化する (Kim et al., 2007).したがって,関節可動域向上や神経筋興奮性低下を目的に行われるストレッチングの効果は,若年者と高齢者で異なる可能性が考えられるが,これまでこの点について検討した研究はない.そこで本研究は,H反射法を用いて非侵襲的にストレッチング後の若年者と高齢者の脊髄運動ニューロンプールの興奮性を評価した.
 被験者は若年者(男女各5名,19~22歳)と高齢者7名(男性3名,女性4名,65~79歳)とした.被験者に安静座位を取らせた.膝窩部から後脛骨神経に経皮的電気刺激 (~60V, 1 msec) を与えてヒラメ筋のH反射を誘発し,双極誘導法によって筋電図活動を記録した.テスト刺激強度はH反射が最大M波の20~25%としたが,このサイズのH反射が誘発できない被験者については最大H反射振幅値未満となる刺激強度を用いた.また,テストサイズにおいて小さなM波を伴わない被験者は,最大M波の5%程度のサイズを伴うH反射を別途誘発し記録した.被験者に安静状態を保たせたまま,実験者が被験者の足関節を手動で120°から徐々に背屈しヒラメ筋をストレッチングした.背屈範囲は被験者が痛みを感じない最大範囲とし,角度計を用いて毎回の背屈範囲が一定になるように配慮した.ストレッチング時間は最大背屈位での保持時間0秒,10秒,30秒および60秒とし,基準位置に足関節を戻したのち10分間H反射を記録した.ストレッチング時間は被験者毎にランダム順とした.
 保持時間0秒の場合,両群においてH反射振幅は変化しなかった.若年者では保持時間が10秒以上になるとストレッチング後1分間はH反射振幅が20~30%程度低下するが,低下量においてストレッチング時間の影響は観られず,2分後には基準程度に回復していた.高齢者群では,ストレッチング後にH反射が有意に低下するには60秒間必要であり,基準レベルに回復するまでは3分間必要であった.
 これらのことから,神経筋興奮性低下を目的としたストレッチング効果を高齢者に与える場合は,ストレッチング時間を若年者よりも長くする必要があると考えられた.