表題番号:2013A-6364 日付:2014/04/08
研究課題認知症への心理社会的アプローチとしてのライフレビュー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 加瀬 裕子
研究成果概要
1.目的
本研究は、在宅の認知症高齢者と家族介護者夫婦を対象に、構造化ライフレビューとライフレビューアルバムの作成による介入プログラム「Couples Life Review」を実施する。認知症介護者夫婦一緒に行うライフレビューが、楽しみと共感的意識を促し、家族介護者が認知症高齢者の人間性理解の契機となり、夫婦の関係性の意識に改善をもたらすことを仮説とし、その検証を試みた。

2.対象 
 在宅の認知症診断後の高齢者と介護者夫婦を対象として「夫婦間ライフレビュー」を行い、効果測定を行った。被験者の選定は、東京都、埼玉県、神奈川県の13箇所の居宅支援事業所に委託し、実施者の意図が加わらないようにした。選定方法は、在宅サービスを行っている介護支援専門員が、訪問先の認知症患者と介護者夫婦を選定し依頼した。相手の承諾を得た時点で連絡を受け、対象者として登録し訪問介入を開始した。

3.介入方法
 対象者宅を毎週か隔週程度の間隔で訪問し、1回1〜2時間、全6回の構造化ライフレビュー「Couples Life Review」を実施する。対象者夫婦に毎回「出会い」「新婚」「中年」「最近」のテーマを提示する。テーマに沿った思い出の写真や品物の選定を次回までの課題とする。聴き手である実施者が、「出会い」「新婚時代」「中年時代」「最近」の各テーマに沿って、夫婦の語りの文章化と写真から「ライフレビューアルバム」を作成する。毎回面談時に前回までのアルバムを提示する。実践終了時にライフレビューアルバム「二人の物語」を贈呈する。実践終了1ヶ月以降に家族介護者へのインタビューを実施する。1ケースの全行程は、約3〜4ヶ月の期間を要する。実施者は、早稲田大学大学院老年社会学専攻加瀬裕子研究室所属の大学院修士課程の3名が行った。2013年度に得られたデータは1件であったため、2012年度までに得られたデータと合わせて5症例について分析した結果を報告する。

4.結果
認知症評価指標であるMMSE(Mini-Mental State Examination)は30点得点合計で、重度(0〜10点)、中等度(11〜20点)、軽度(21〜24点)と分けられる。「Couples Life Review」の対象者は、〔A〕発話困難な重度認知症(MMSE測定不可)(C2,C3)2名(夫1,妻1)と、〔B〕会話可能な中等度認知症(MMSE15〜16)(C1,C4,C5) 3名(夫1,妻2)に2分類できる。
  調査項目は、①夫婦間尺度(Spanier,1982)、②相互関係性尺(SebernWhitlatch, 2007)、③認知症高齢者のQOL尺度(Logsdon,Gibbons,McCurry,Teri,1999)、介護者に対する要介護者の認知症に対する介護技術やサービスに関する質問(Schulz et al ,2001)、⑤高齢者抑うつ尺度(Sheikh & Yasavege,1986)、⑥主観的幸福感 (Lawton,1975)、⑦介護者負担尺度(Zarit,1980)を用いた。分析方法としては、順序尺度であることから、ノンパラメトリックでのウィルコクソン符号順位和検定が該当するが、対象症例が5症例と標本数がn=6を下回り、適切な検定実施には満たない。その為、検定は行わず、前後値での差異の変化から傾向を読み取る点について解釈を加えた。
①夫婦間尺度 
前後値での差異は認められなかった。
②介護関係性尺度 前後値での差異は認められなかった。
③認知症高齢者のQOL尺度
前後値結果にバラツキもあり、正確な結果は評価できなかった。
④介護者の認知症に対する介護技術やサービスに関する質問
平均での差異は認められなかった。しかし、C4介護者において前後比で、11項目中7項目で数値の上昇が認められ、実施前に比べて実施後は明らかに高い結果を示していた。
⑤高齢者抑うつ尺度(GDS)-C4,C5
2ケースのみ実施の結果を参考に添付する。5点以上をうつ傾向、10点以上をうつ状態とする結果解釈から、C4介護者は実施前うつ状態であったことが認められ、それが実施後2ポイントだが減少していた。C5介護者においては、うつ傾向の数値が上昇する結果であった。ライフレビューの語りからはこの心理状況は判別できないが、GDSの追加実施により、介護者の心理状況を把握することは必要かと思われた。
⑥主観的幸福感尺度(PGC)-C4,C5
主観的幸福感については、C4,C5介護者共に前後値の比較による特徴的な差異はなかった。
⑦Zarit介護者負担尺度(J-ZBI)-C5
Zaritの介護者負担尺度のC5介護者前後値比による差異でも、明らかな減少が示された。介護負担感の定義より、前値は中等度負担感群に該当し、後値ではやや中等度負担感群へと移行している。その内容も、やはり、RSには変化はなく、PSが軽減されている事から、心理精神的負担感の軽減が示唆された。

5.結論
 「夫婦間ライフレビュー」は、心理社会的介入として効果があることは示されたが、被験者の数が量的分析に適したものとならなかったことは本研究の限界である。今後は、研究デザインを修正して研究を継続する予定である。