表題番号:2013A-6362 日付:2014/04/02
研究課題緑化した屋上の熱収支と温度の季節変化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 太田 俊二
研究成果概要
都市化の進行にともなって気温が上昇するヒートアイランド現象は、熱中症などの健康リスクを高めることが懸念されてきている。気温上昇を緩和するという手法として、近年頻繁に用いられているのがベランダや屋上の小規模緑化である。実際に数十平方メートル以上の比較的大規模な屋上緑化については、これまでも夏季に周辺の気温を緩和する効果が確認されているが、ベランダ緑化や小規模な屋上緑化を想定した場合の熱収支的な解析研究は非常に少ない。そこで本研究では、数平方メートルという比較的小規模な緑化が付近の温熱環境(温度や熱収支)に与える影響について観測を行った。
上記の観測を行うため、春季から秋季にかけて、早稲田大学所沢キャンパス100号館5階のE552実験室北側のベランダに約1.5m四方のシバの緑化区を新たに設置し、緑化区と非緑化区のそれぞれの温湿度と蒸発散量、および日射量等の各気象要素について、各種気象観測機器を用いて継続的に観測した。また、規模の異なる緑化域との比較のため、同じ所沢キャンパス内の学生会館前にも同様の観測装置を設置した。
春季から秋季を通じて、小規模な緑化区のシバは、従来の大規模な緑化区とほぼ変わらない生育をしていることが蒸発散量や各熱収支項目から確認された。しかしながら、小規模緑化区の高さ1.5mの距離では、付近の気温を低下させる効果がほぼ見られないことがわかった。これは同様の高さにおいて夏季日中に顕著な気温の低下がみられた従来の研究や学生会館前のより規模が大きい緑化区の結果とは異なるものであった。一方で、夏季の小規模緑化区の湿度は、比較的規模が大きい緑化区と同様に、付近よりも顕著な上昇をしていた。
以上の結果より、夏季や秋季の小規模な緑化は従来の比較的大規模な緑化手法と比べて、付近の気温を低下させる効果が非常に小さく、気休め程度の緑化であると言える。さらに、観測した気温と湿度などから、熱中症リスクを推定する指標であるWBGT値(Wet Bulb Globe Temperature)を求めると、小規模緑化区は夏季において熱中症リスクを逆に高める場合があることも今回の研究から明らかとなった。