表題番号:2013A-6353 日付:2014/04/24
研究課題東日本大震災の記憶と記録をめぐる人々の活動に関する知識社会学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 准教授 周藤 真也
研究成果概要
 本研究は、2011年の東日本大震災における津波を中心とした被災地域において、震災の遺構や経験を保存する人々の活動を通して、震災という出来事がどのように「集合的記憶」となりつつあるのかを、観察し分析し記述することを目的として研究を行ったものである。周知のように2011年3月11日に東北地方太平洋沖で起こったM9.0の巨大地震は、太平洋岸に襲った津波を中心として未曽有の災害を引き起こした。この災害において、被災地では莫大な量のがれきが発生し、それらの片づけが進み落ち着いていくにつれて、この災害を象徴する遺構や遺物を保存しようとする機運や、震災の経験を語り継ごうとする機運が高まっていった。しかしながら、遺構や遺物について言えば、すべてのものを保存することは不可能であり、またそれらを目にすることによって、災害の記憶が蘇ることがストレスになる人もいることから、撤去・解体され、処分されたものも多い。また、震災の経験を記録し語り継ごうと取り組むいくつも見られるが、そうした取り組みは〈生〉の体験を何らかの形に整理し再構成することである。被災地では、震災遺構をめぐって、保存するべきか否か、議論が分かれたり、また保存するとしても、その財源、保存方法などをめぐって、さまざまな議論が生じていることも知られているところである。
 本研究では、東日本の太平洋岸(青森県南部~茨城県北部)全般を調査対象地域として、現地に断続的に7度に渡って訪問し、「震災体験」の語りや「震災遺構」の保存に関する活動の情報と資料の収集を行った。そして、本研究は、人々が現在において歴史を構築する「社会構築主義」の立場から、人々がそれぞれの活動を通して、どのように「震災の記憶」や「震災の歴史」を作り上げているのかという観点から分析を試みた。本年度の研究において特に注目をしたのは、陸前高田市のいわゆる「奇跡の一本松」の保存や、被災地に桜の木を植えようとする人々の活動である。このようにこうした樹木の表象を用いて、人々は、震災において亡くなった人々に対する想いを保存するとともに、震災の記憶そのものを保存しようとする人々の活動がある。しかしながら、東日本大震災における「震災後」の人々の活動は、東北地域等に限定されるものではなく、日本という国民国家全体にわたる主題であった。そこではローカルなレベルの主題と、非ローカルあるいはナショナルなレベルでの主題とが拮抗し互いに争いつつ、「震災の記憶」が形作られようとしている様相を観察することができた。
 本年度はこうした研究活動を通して、その成果を一つの論文にまとめあげることができた。本研究は、最終的には日本という国民国家が東日本大震災という出来事を通して、どのように再構成されつつあるのかを焦点化していくことを目標とするものである。引き続きこの目標に向けて研究を継続していきたいと考えている。