表題番号:2013A-6351 日付:2014/04/03
研究課題国際投資仲裁における最恵国待遇条項
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 福永 有夏
研究成果概要
 二国間投資協定(BIT)の最恵国待遇条項は、BIT(基本条約)の一方の締約国が、他方の締約国の投資家や投資財産に対し、第三国とのBIT(第三国条約)に基づき第三国の投資家や投資財産に与える待遇よりも不利でない待遇を与えることを求める。換言すれば、基本条約の他方の締約国の投資家は、基本条約の最恵国待遇条項を介し、第三国条約によって与えられている第三国の投資家や投資財産に対する有利な待遇を、自らやその投資財産に適用するよう求めることができる。
 近年、基本条約の最恵国待遇条項が第三国条約を根拠として基本条約上の保護を拡大し得る範囲について投資仲裁の中で相矛盾する決定が多数発出され、注目を集めている。すなわち、最恵国待遇条項を広く解し、第三国条約の実体上及び手続上の保護を基本条約の他方の締約国の投資家や投資財産にも与えるべきと結論する仲裁決定がある一方で、最恵国待遇条項を狭く解し、特に第三国条約の手続上の保護を基本条約の他方の締約国の投資家や投資財産に与える範囲を限定しようとする仲裁決定もある。最恵国待遇条項の解釈をめぐる尖鋭な対立は、投資仲裁の正統性を危うくすると危惧されることもある。
 本研究は、物品貿易、サービス貿易、知的財産権、政府調達について、BIT以外の経済協定、とりわけ世界貿易機関(WTO)協定や地域貿易協定(RTA)に定められる最恵国待遇条項を分析し、それとの比較でBITの最恵国待遇条項の特異性を明らかにした。
 すなわち第一に、物品貿易や知的財産権に関する最恵国待遇条項が、多角的貿易体制を安定させる無差別待遇義務として機能している一方で、BITの最恵国待遇条項は、その保護の内実が第三国条約との関係で決定されるという意味で、むしろ経済関係を不安定にしている。第二に、物品貿易やサービス貿易については、最恵国待遇条項によって生じ得る不均衡を矯正するための例外や免除が認められているが、BITについてはそのような最恵国待遇条項の例外や免除が定められていない場合も少なくない。第三に、サービス貿易や政府調達に関する最恵国待遇条項は、第三国条約上のより有利な待遇が基本条約の締約国にも適用されるよう交渉を行うことを求めるにとどまるが、BITの最恵国待遇条項は、BITの一方の締約国の投資家が、仲裁において最恵国待遇条項に基づく利益を自らの法的権利として主張することを可能にしている。
 本論文は、こうしたBITの最恵国待遇条項の特異性が、BITの最恵国待遇条項をどのように解釈すべきかについての議論を必然的に惹起し、BITの最恵国待遇条項の解釈の対立を生んでいると指摘した。
 本研究の成果の一部は、2月及び3月(2回)に行われた会議において、発表した。
 また、本研究の成果は、3月に脱稿した論文(2014年刊行予定の書籍に収録)においてまとめた。