表題番号:2013A-6324 日付:2014/04/10
研究課題超高精細ビデオ符号化のための動きベクトル検出の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 渡辺 裕
研究成果概要
本研究では,動き推定誤差データの曲面近似に基づく画素補間が不要な小数画素精度動き推定手法を提案した.実験結果では,提案手法の性能をPSNRとビットレートの観点から評価した.その結果,MPEG-4 AVC (Advanced Video Coding) 及びMPEG-4 HEVC (High Efficiency Video Coding) のいずれの符号化方式と組み合わせても,R-D性能の点から劣化がほとんどなく且つ演算量が14-46%削減されることが分かった.
まず,整数画素精度の動き推定マッチング誤差を,縦横画素位置を変数とする2次元データとして取扱い誤差曲面を生成した.次に,その曲面に対する数学的モデルとして,9個あるいは6個のパラメタからなる放物線関数(パラボリック形式)を用いた.予備実験を行い,実験から得られた誤差曲面とモデル関数とを照合した.その結果,曲面のある小領域では,中心位置の誤差演算時において45度方向に位置する画素の誤差からの寄与が非常に少ないことが分かった.したがって,中心位置とその縦横4画素からなる誤差に与える5個の係数(パラメタ)からなるモデルにより,十分誤差を近似できることが分かった.さらにより簡単な縦横分離形式でも十分な精度で近似できることが分かった.この1次元放物線を決定するパラメタの定義域についても検討した.
また,放物線と比べてより自由度の高いいくつかのスプライン曲線の導入について検討した.スプライン曲線には,Cardinal-Spline, Hermite-Spline, Bézier-Spline, Non-Uniform Rational B-Spline (NURBS) などがある.このうち,3点の制御点で描ける2次形式のBézier-Splineによる誤差表面近似に基づく少数画素精度動き推定手法を提案した.実験の結果,整数画素精度の動き推定にBézier-Splineに基づく提案手法を組み合わせた方式は,より精度の細かなベクトルを選ぶ傾向にあることがわかった.Bézier-Splineの曲線を規定する係数の導出において、しきい値により場合分けすると,より性能が向上することが分かった.
そこで提案方式をMPEG-HEVCと組み合わせ,その性能評価を行った.HEVCはAVCと比較して,符号化画像が同一の品質であれば,符号化レートが50%に削減できる超高圧縮符号化方式であり,2013年1月に仕様が凍結された最新の方式である.AVCは現在では幅広く普及しており,Blu-Ray Diskやハンディカム用のAVCHDで用いられている高圧縮符号化方式である.AVCでは動き補償のためのブロックサイズは主に16x16画素であったが,HEVCでは動き補償のためのブロックサイズが64x64画素にまで拡大可能となっている.したがってBézier-Splineの曲線を決定するしきい値を調節することとした.AVC,HEVCいずれの方式と組み合わせても,提案方式はR-Dの観点から劣化はなく,演算量が14-46%に低減できることが分かった.また処理時間をCPU time (msec) で評価した場合でも,13-36%に低減できることが分かった.したがって本提案方式は,8k画像 (水平画素数8000) のように超高精細に向かいつつある今後のテレビジョン画像を対象とする符号化器や,モバイル端末のようにCPU能力が低い符号化器において,演算処理量の低減に大きく貢献する技術である.