表題番号:2013A-6319 日付:2014/04/08
研究課題Arを用いた暗黒物質探索実験のための背景事象識別能力の評価とその改善
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 寄田 浩平
研究成果概要
近年の暗黒物質(DM)の探索は、特に低質量領域で相互矛盾する実験結果が乱立し、混沌としている。このような状況下では、異なる媒質、異なる手法、異なる背景事象環境での結果を相補的・多角的に検証することが必須である。本研究の目的は、低質量領域(WIMP質量10GeV付近)にも感度をもつ「気液2相型アルゴン光検出器」を早稲田大学独自に開発・構築し、暗黒物質探索(ANKOK実験)を行うことである。γ線由来の背景事象と信号事象に対し、Ar蛍光の波形分別(時定数の違いによるslow/total比)による識別力に加え、気・液2相式によるS1/S2比を用いて識別能力を高めるのが基本概念である。
早稲田大学構内に構築したプロトタイプ検出器(75L)を用いて2相式の運転管理、高純度維持、高電圧印加等、本実験に必要なハードウェア要素開発を一通り行ってきた。Cf線源からの中性子(原子核反跳)事象とγ(電子反跳)事象を解析し、波形分別(slow/total)能力を精査したところ、目標の10の5乗の背景事象棄却@~40KeVnrを達成することができた。これらの成果から、2013年度の暫定結果として期待通りの識別能力(PSDだけで>10^5、S1/S2と合わせて>10^8)の目処がたった。また、地上における中性子束測定(液体シンチレータ)も行い、実際の探索感度の議論を深めている。一方2013年度とくに注力したのが、低質量領域探索の必要条件である光検出効率最大化である。結果として、7.3pe/KeVee(当初目標は5pe/KeVee)という現状で世界第2位の光収集効率を得ることができた。さらに今後は、高QE(現行PMTの1.5倍)&低バックのPMT(R11065-20、現在5本所持)の使用や新しい窒素除去システムによる蛍光slow成分の光量増加を行うことで、世界最高の光量を達成する予定である。加えて、実験データを理解するために、伝播光学系、変換効率、反射特性や減衰などを考慮したシミュレーションも構築した。これらシミュレーション研究と合わせて、本実験用2相型検出器の最適な形状デザインを開始している。2014年度には神岡地下施設における「地下での中性子束の測定やγ線の評価、地上との比較」、また「検出器内部部材起因の背景事象の理解・評価・削減」に向けた共同利用を行うべく調整を開始した。これまでの成果は、論文、学会発表、所属学生の卒業・修士論文にすべて纏めた。