表題番号:2013A-6308 日付:2014/03/26
研究課題PL法によるSiC-MOS-FET高耐電圧化のためのゲート酸化膜の膜質評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大木 義路
研究成果概要
MOSデバイスの製造において、イオン注入がしばしば行われる。しかしながら、イオン注入による欠陥生成や、結晶性低下などの影響はあまり明らかにされていない。また、MOSデバイスの性能向上のための微細化に伴い、注目されているのが、SiO2より比誘電率(k)を高めたhigh-k膜を用いることである。さらに、Siに代わるMOS-FETパワー半導体材料として、バンドギャップの大きなSiCが実用化されつつあり、Si-MOS-FETでは1kV以下であった耐圧は将来的には5kV程度まで上昇すると言われている。この実現のひとつの大きな障害は、絶縁膜の絶縁破壊であるが、その原因は電荷のトンネル放出であるので、ゲート絶縁膜を厚くすることができるhigh-k膜が、やはり注目されている。high-k膜材料の中でもYAlO3およびLaAlO3が次世代材料として注目されている。以上の理由から、本研究では、YAlO3単結晶(100)、LaAlO3単結晶(100)を試料とし、加速電圧150keVでP+、B+を1×1015cm-2照射し、その前後で、X線回折(XRD)測定、分子科学研究所のSR光源を用いた10Kでのフォトルミネセンス(PL)測定、光吸収測定などを行った。
その結果、イオン照射後、とくにYAlO3において、バンドギャップ(7.7eV)近傍の吸収が大きく増加すること、両試料においてXRDピーク強度が著しく減少することから、イオン照射により結晶性が低下することが示唆される。また、LaAlO3ではイオン照射前後でXRDピーク位置は変わらないのに対し、YAlO3ではピークの位置がシフトする。これは、YAlO3では格子間隔が変化していることを示す。Laより原子量が小さいYではB、Pによる置換が生じやすいことを示唆している。
さらに、両試料には酸素空孔と不純物(Cr、Erなど)が点欠陥として存在するが、イオン照射後、両試料において、酸素空孔に起因するPLの強度には変化がなく、Cr3+のR線発光に起因するPLやEr3+の発光に起因するPLの強度は、減少すると言う事実を得た。たとえば、Cr3+のR線の発光は、遷移金属不純物であるCr3+とO2-とが八面体型配位子場を形成し、シュタルク効果が働くことにより出現する発光であり、当然配位子場に敏感であり、結晶性が高い場合にのみ現れる。一方、酸素空孔によるPLは、YSZ、ZnO、SiO2など多くの物質で、単結晶、アモルファスを問わず見られ、例えば、スート再溶融法により成膜した完全にアモルファスであるSiO2においても発光が確認されている。以上より、イオン照射後に、結晶においてのみ見られるPLだけが消滅している事が分かる。
これらをまとめると、試料のごく表面のみしか結晶性を評価することができないXRD測定に加えて、イオン通過範囲全域にわたって高感度な検出が可能なPL測定を補完する形で用いることにより、イオン照射により、YAlO3およびLaAlO3の結晶性が低下すること、YAlO3に比べてLaAlO3の方がイオン照射に対する耐性が強いことなどを明らかにすることに成功した。