表題番号:2013A-6304 日付:2014/04/08
研究課題大規模量子科学計算と分子動力学法の融合による化学反応シミュレーションの実行
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 中井 浩巳
研究成果概要
本研究の目的は,申請者らがこれまでに開発・発展させてきた大規模量子化学計算である分割統治(DC)法に分子動力学(MD)法を組み合わせることにより,結合の生成・開裂を伴う化学反応の動的なシミュレーションを行うことである。これにより,従来の量子化学計算だけでは困難であった温度や時間の効果を取り込むこと、従来のMD法では困難であった結合の生成・開裂を取り扱うことの克服を目指した。原理的には単に量子化学計算とMD法を組み合わせるだけ(一般にAIMD法と呼ばれる)で化学反応シミュレーションは行えるが,MD法の時間ステップ(通常,1フェムト秒(fs)程度)ごとに量子化学計算,特に,力の計算を行う必要があり,現実的な反応を追跡できない。本研究では,比較的計算コストが小さい密度汎関数強束縛(DFTB)法に着目し,さらにDC法を適用することにより,この困難を克服した。また、「京」コンピュータなどの超並列環境に対応したプログラム開発も行った。8,000分子の水に対するDC-DFTB法のエネルギー計算が,2,500ノード(20,000コア)を使用することにより1.125秒で実行できることを確かめた。並列化度79.5%に加えて、高い実行効率も達成した。さらに、(1)アミン溶液によるCO2吸収・放散過程,(2)グラファイト電極表面での電解質溶液の分解反応,という2つの化学反応に応用した。(1)では、CO2の吸収過程では、OH-によるプロトンの引き抜きが水の水素結合ネットワークを介してアミン-CO2複合系に作用することを明らかにした。一方、放散過程では、カルバメートとプロトン化アミンが直接プロトンの授受を行っていることを明らかにした。このように、同一の反応であっても、微視的な反応機構が異なることは、反応シミュレーションによって初めて明らかにできることであり、本研究の意義は大きい。(2)では、実験的にとらえることが困難なSEI膜の成長過程の初期段階を明らかにした。