表題番号:2013A-6285 日付:2014/04/05
研究課題メキシコの水利・灌漑組織の歴史に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岡田 敦美
研究成果概要
当該研究の研究成果としては第一に、論文「水利秩序の成立過程と灌漑組織について――ディアス運河(メキシコ)の事例から」(2014年)がある。当該論文は、ソノラ州ヤキ平野にある、地域内では相対的に古い灌漑施設(運河)であるポルフィリオ・ディアス運河(別名は民衆運河)とその利用者たちに焦点を当て、そこで生まれた水利組織のあり方とその変遷を、農業勧業省の資料を用いて分析したものである。近年の当事者主体、かつ民営化された灌漑組織に関する議論を概観したうえで、そのような灌漑組織の在り方を半世紀以上先取りした先駆的な事例とも考えられるディアス運河の水利組織の成立過程と、その規定の変遷を詳細に検討した。灌漑の歴史が国内他地域と比べると浅く、従って灌漑組織が作られるのも20世紀に入ってからと遅かったという地域的特色と、わずかなうちに民間企業に灌漑事業全般が委託され、その新しい灌漑システムに否応なしに吸収・合併されていった運河であるという特色を持っており、この事例が直ちに一般化できるわけではないが、企業に接続された灌漑地域は北部には珍しくない。植民地期など古くから灌漑組織が成立していた地域に関する事例研究とのすり合わせを今後は進める予定である。
第二に、これとは別に、今後の研究のための史料の保存や検索を容易にするために、すでにある一次史料の整理、電子化、データベース化を行った。そのうえで、新たな資料(図書、論文)の収集と読み込みにより、メキシコ国内の複数の地域の事例に関する分析を行った。また、他国の水利組織に関する先行研究の収集や検討を、日本およびメキシコで行った。一方で、文書史料のカタログにおける史料ファイルの検索を行うことによって、入手可能な資料のある事例は何かを検討した。
第三に、先行研究の収集とその検討の結果から、同じメキシコ北部でさえも北部地域全体が「北部」とひとくくりにできるわけではない状況にあり、地方による違いや歴史的ないきさつの違い、灌漑事業の主体や住民構成の違いに起因するばらつきがあることがわかった。
第四に、今後の一次史料収集上の見通し全般を調査し、一つの知見を得ることができた。