表題番号:2013A-6281 日付:2014/05/01
研究課題理工系分野に関する論文・口頭発表・講義における言語特徴の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 国吉 ニルソン
研究成果概要
目的
 理工系の分野において,「論文」および「口頭発表」の形で研究者が情報発信を,英語によって行う必要がある.研究者はこの事実を強く意識しており,経験によってこれらのジャンルの言語特徴を把握し,適切に論文や口頭発表を行っている.近年,早稲田大学理工学術院においても,講義も英語によって行われることになった.ヨーロッパと異なり,日本においてはこの動きはまだ新しく,日本の大学教員は「英語による講義」の言語特徴を十分に把握できていない可能性は高い.そこで,本研究は「英語による講義」,「英語による論文」および「英語による口頭発表」の言語特徴にどのように異なるかを明らかにすることを目的とする.

方法
 「英語による論文」における言語特徴を特定するために Elsevier 社 やTaylor and Francis社,Institute of Physics, American Chemical Societyなどにある理工系の多分野にわたる多くのjournalに2013年に掲載された論文をダウンロードし,論文のコーパスを構築した.AntConcソフトウェアを用いて論文コーパスを解析した.
 「英語による口頭発表」における言語特徴を特定するために以前に研究代表者が開発・公開したJECPRESE (The Japanese―English Corpus of Presentations in Science and Engineering)を用いた.
 「英語による講義」の言語特徴を特定するために以前に研究代表者が開発・公開したOnCAL (The Online Corpus of Academic Lectures)を使用した.

結果
 論文,口頭発表および講義は,それぞれで取り上げられる内容は大きく異なるため,それぞれの言語特徴もそれによって異なるが,できるだけ似た内容を比較する必要がある.そこで,論文と口頭発表のIntroductionの部分は講義に出現する内容と最も近いと判断した.これは,Introductionではすでに知られていることを紹介する部分があるからである.その中ではknowという動詞に注目した.
論文では,「It is well known that…」のような受け身形の動詞が含まれる表現は多く見られる.これに対して,knowという動詞を口頭発表で検索すると,「we all know that」に表現は変化し,「we」などの代名詞は主語になる表現は多く見られる.講義も話し言葉を用いるジャンルであるため,口頭発表と似た言語特徴を有する.しかし,講義では「don’t know」,「doesn’t know」および「didn’t know」の否定形はknowの全活用中に17%以上を占めていた.これは大変興味深い結果であり,ジャンル間に言語特徴が異なることを示している.

結論
研究者が研究成果を発信するためや講義にて教育効果を上げるためにそれぞれのジャンルにて言語を適切に用いることは重要であり,本研究で得られた結果がその事実を示している.