表題番号:2013A-6280 日付:2014/04/07
研究課題才能と障害の接点:ウィリアムズ症候群の多重知能を中心とする事例研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 片田 房
研究成果概要
 7番染色体の長腕部(7q11.23)から28前後の遺伝子(とりわけエラスチン遺伝子)が欠損して発症するウィリアムズ症候群(WS: Williams Syndrome)疾患児者は、知的障害を伴い、視空間認知や数学概念の理解を極度に苦手とする‘障害’がある一方で、優れた音感と言語表出能力は担保されており、相貌認知が良好で他者への共感性も高いなどの‘才能’を示すことを特徴とする。本事例研究は、このような認知的乖離現象(能力の山と谷)が顕在化するWS疾患児者の能力を多重知能の観点から観察し、通常の定型発達児者群を対象とする研究のみでは見えてこないメタ認知の全体像をより多角的に把握し、共生社会・インクルージョンの理念を学校教育において実現する一つのモデルを構築するためのパイロット・スタディとすることを目的とした。多重知能には論理・数学的知能、視覚・空間的知能、内省的知能、言語・語学知能、音楽・リズム知能等が含まれる。研究期間が一年未満の本研究では、前年度(2012年度)まで遂行してきた言語特化型の研究成果と連続性を持たせ、言語と音楽を中心にパイロット実験を行った他、被験者の通学する学校を訪問し、非定型的行動の全体像の理解に努めた。
 前年度(2012年度)まで遂行した言語特化型の研究では、三つの言語リズム(ストレス型言語、シラブル型言語、モーラ型言語)のうち、一拍が等時間隔で生起するモーラ型言語音への反応が英語母語話者の被験者であっても良好であることを観察している。これは、視空間認知や算数概念の理解を極度に苦手とする‘障害’のために音符が読めないというWS疾患児者に対し、五線上に生起する音符の高低差を排除し、音符の長さを等間隔化し、加算による音符の長さの読み取りを排除した記譜法であれば、読むことができるということを予測させた。そこで、非定型発達児の音楽指導に経験のある音楽教師の協力を得て当予測の理に沿う教材を準備し、2013 年9月15日、栃木県宇都宮市栃木健康の森・多目的ホールにて開催した「才能と障害の接点―ウィリアムズ症候群―ことばと音楽のワークショップ」と題するワークショップにて音楽を指導した結果、当予測に沿う結果を得た。これは、指導法の工夫により、‘障害’を‘才能’に転化させることが可能であることの一例として、インクルーシブ教育のモデルになり得る結果でもある。
 上記の活動がパイロット・スタディーとなり、才能と障害のインターフェイスをメタ認知と多重知能の観点から検証する研究計画が平成26年度科研費(基盤研究B)に新規採択された。本特定課題研究で計画した活動のうち、消化しきれなかった研究項目とデータの精査は、今後科研費の下で遂行していく。
 当研究期間の最終段階で、東京音声研究会主催の講演会(2014年3月8日早稲田大学にて開催)にて招待講演を行い、WS疾患児者の多重知能が顕在化する認知的乖離現象を紹介した。
<演題>非定型発達児にみる多重知能及び日本語における‘浮遊モーラ’の提唱-ウィリアムズ症候群の認知プロフィールより-
 尚、米国ウィリアムズ症候群協会が7月2日-5日に開催する「2014 WSA National Convention」(開催地米国カリフォルニア州アナハイム市)に、保護者と教育者を対象とするセッション「Insights from Japan for Williams Syndrome」が採択されており、その中で「Reading Music without Music Notes」と題して本研究成果を講義する。